「世界一危険な道」をTVマンが歩いてみた【中編】 「心臓に悪すぎる…」「最悪、命は…」驚きの世界
東洋経済オンライン / 2024年3月10日 11時51分
チベット仏教が息づくヒマラヤ山脈の奥地にあるスピティバレー。
世界36カ国を約5年間放浪した『花嫁を探しに、世界一周の旅に出た』著者・TVディレクターの後藤隆一郎氏は、いつ壊れてもおかしくない古びた車で世界一危険な道を進む。
崖下は数百メートルの谷底。タイヤは崖際ギリギリ。やがて、車はこれまでで最もきつい角度のカーブに差し掛かった……。
*この記事の前半:「世界一危険な道」をTVマンが歩いてみた【前編】
*この記事のつづき:「世界一危険な道」をTVマンが歩いてみた【後編】
「ヤバい、心臓に悪すぎる…」
ジュッと音が鳴り、白い土煙が舞う。
【写真で見る】標高4000m!敏腕TVディレクターが歩いたヒマラヤ山脈の「世界一危険な道」のリアルな様子
その瞬間、山の神が「人間よ、やってくれたな。今度はお前に痛みを与えてやる」と、人間に削りとられた崖の痛みに対する報復の狼煙をあげているかのように感じた。
「ヤバい、負の感情に引き込まれる」
俺は慌てて首を逆に向け、窓の下を覗き込むのを止めた。なにしろ心臓に悪すぎる。そもそもお化け屋敷でさえ、好きなほうではないのに……。
ビビっているのは俺だけではなかった。同乗するインド人の方が先に参ってしまったのだ。
幅が広い道で車を止め、嘔吐する。赤い目をした黒い顔が青ざめているのがわかった。
彼の言葉によれば、インド人はあまり車に乗らないため、長距離移動で車酔いする人が多いとのこと。
吐いたことが恥ずかしいのか、言い訳するインド人が少し可愛らしく感じられた。ここまで一年近く旅を続け、揺れる車にも慣れてきた俺は、表面的にはまったくもって平気なように見えただろう。
しかし、その平常心の奥には確実に暗い恐怖が潜んでいる。妙に興奮し、ややハイテンション気味なのは、その恐れを覆い隠すための防御だと自身で理解していた。
標高4000m近く、空気が薄く酸素が少ない
山道は登るだけではない。山を縫うような一本道で進むため、地形に合わせて下ることも多い。
標高が4000m近いので、空気が薄く酸素が少ない。頭がぼーっとしているのだが、それに加え、急勾配の激しい高低差で耳がキーンとなってしまうと、今、自分がマトモなのか、そうじゃないのかがわからなくなってしまう。
標高2000mのマナリでさえ、高山病の症状がでた旅人を見かけた。 幸運だったのは、ダラムサラーやマナリなどの高地で数カ月過ごしていたので、身体が薄い空気に慣れていたことだ。
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