鳥山明さんの死を台湾人が惜しむ現代史的背景 1980年代からの民主化の過程に「七龍珠」が輝いた
東洋経済オンライン / 2024年3月10日 11時20分
この時、強行突入に踏み切った警官隊を指揮したのが、2024年1月の総統選で国民党公認候補として出馬した侯友宜・新北市長だ。この事件は、侯市長が今でも民主進歩党(民進党)や人権派人士から非難される理由の一つになっている。
普通のマンションの一室だった当時の出版社の事件現場は、現在、鄭南榕紀念館となっている。火災跡の状態を残し、民主化の聖地として人々に受け継がれている。また、建物の前の通りは「自由巷(通り)」と名付けられ、命日は「言論の自由の日」に定められた。
このころ、台湾のエンタテイメントの世界でも当局による検閲が行われ、当局による「ろ過」を経た、遅れたコンテンツが人々の間で伝わっていた。しかし、これを劇的に変えたのがVHS、ベータビデオなどのAV機器であり、街中に出現したレンタルビデオショップや漫画ショップだった。
そして、この流れに乗って台湾の家庭にまで浸透していったのが、志村さんの番組であり、鳥山さんの『ドラゴンボール』に代表される日本のソフトコンテンツだった。
それまでリアルタイムの日本に直接触れる機会が少なかった世代が、ビデオや漫画を経由して、一気に接することができるようになった。
大人の世界では、前述の鄭南榕さんのような民主化に刻まれた劇的な事件が起きるなど、民主化への躍動と希求が募っていたのに対し、子どもの世界では日本のエンタテイメントやコンテンツが爆発的に広がった時期と言えるだろう。
日本の漫画雑誌を競うように読んでいた台湾
日本のコンテンツに対する人々のニーズはすさまじく、ビジネスとしても急成長する。まだ著作権への遵法意識が低かったことに加え、国交がないことで国際間の取り決めが十分に浸透しない時代だった。
そのような抜け道やグレーゾーンが多かった状況を逆手に、多数の漫画やアニメが翻訳出版されることになったのだった。
その中には、今ではとても考えられないことだが、『週刊少年ジャンプ』『週刊少年マガジン』『週刊少年サンデー』、それに『週刊少年チャンピオン』を1冊にまとめた漫画雑誌までも発売されたことがある。
発行スピードは驚異的で、日本でオリジナルが発売されるとただちに台湾に持ち込まれ、すぐに翻訳しながら印刷される。
いつの頃か、日本から正規に空輸された『週刊ジャンプ』よりも速く読めてしまうので、現地在住の日本人子女も台湾版を購読し、日本国内の流行をキャッチアップしていたという。インターネットがない時代において、日台間の情報伝達のタイムラグを最小限に食い止めていたのだった。
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