英国の統計「移民約50万人の見落とし」ヤバい背景 データは信頼できる?EUから離脱を問う火種に
東洋経済オンライン / 2024年3月11日 14時0分
2004年にEUに加わった国は、ハンガリーだけではない。東欧諸国では、チェコ、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロバキア、スロベニアも同年に加盟した。この8カ国は「グループ8」または「新規加盟8カ国(A8)」と呼ばれ、当時の総人口はおよそ7300万人。
これらの国の人々が強い関心を抱いていたのは、ルートンまで週末旅行に出かけることではなかった。彼らは英国への移住を視野に入れていた。
見落とされていた「地方空港」からの入国者
EU拡大に向けて、英国政府はこれらの国から英国への移入民は毎年どれくらいになるのかを予測するよう専門家に依頼した。そうして得られた回答は、「5000人から1万3000人ぐらいと予想される」だった。
だが、実際にやってきた人数はこの予測の20倍以上であり、とりわけ多かったのはポーランド人だった。2001年の国勢調査では、英国在住のポーランド出身者の数は5万8000人。それが2011年には67万6000人にまで増えていた。
予測は大幅に外れ、英国は突如として、東ヨーロッパの人々に最も人気の高い移住先となった。ウィズエアーはルートン、スタンステッド、バーミンガム、ドンカスター・シェフィールドへの新規路線を開設し、イージージェットとライアンエアーもあとに続いた。
これは英国国家統計局にとって大問題となった。基本的に、国際旅客調査(注:この調査で移民も含めた入国者の数が調べられていた)での標本の「母集団」となるのは、英国に出入りするすべての人だ。
そして、好都合にも国の大半が1つの島に収まっていることから、出入国時に必ず通らなければならない出入国管理所の数は限られていて、国を出入りする人の流れがどこで起きているかを正確に捉えやすかった。
国際旅客調査が進められるにあたり、英国に移り住んで働く人(それにもちろん観光で訪れる人も)の大半は、この国の「主要空港」であるヒースロー、ガトウィック、マンチェスターに降り立つはずだとみなされた。
そのため、2000年代半ばに東ヨーロッパからの到着便が大幅に増加した小規模な地方空港においては、2009年以前は調査がまったく行われていなかったか、あるいはごく一部でしか実施されていなかった。
つまり、何十万人もの入国者が見落とされ、推定値を出すためのデータにまったく含まれていなかったのだ。
スープの塩加減を確認するときは、鍋からスプーンで1杯だけすくって味見をすればいい。英国の出入国管理所が全国に1つしかなかったら、そこで標本を抽出して移入民の数を推測するのは、スープを1つの鍋からスプーン1杯だけすくうのと同じぐらい簡単な話になるだろう。
揺らいでしまった統計調査への信頼
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