1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

英国の統計「移民約50万人の見落とし」ヤバい背景 データは信頼できる?EUから離脱を問う火種に

東洋経済オンライン / 2024年3月11日 14時0分

だが実際は、英国には公認の出入国管理所が、113の主要施設も含めて少なくとも270ある。要は、量も塩加減もそれぞれ異なるスープが入った、270の鍋がいっせいに火にかかっているようなものだ。統計職員がこのすべての鍋から味見をするのは無理な話だ。それゆえ、各空港に到着する人数の割合を事前に推測しなければならない。

ヒースローとガトウィックに入る人が圧倒的に多いはずだと考えた統計職員たちは、それらの空港で集中して調査することにした。昔は、ポーランドのポズナンからドンカスター・シェフィールド空港に人々が大挙して押し寄せることはなかった。そのため、統計職員たちは同空港には調査員を1人も配置していなかった。

だがその後、まさにそうした大移動が始まったことで困った事態に陥った。さらに、「A8圏からの新たな移入民の数は、英国への移入民の総数にほとんど影響を及ぼさない」と予測されていたにもかかわらず、まったくの見当違いだったという問題も起きた。

そんなわけで、2007年にブルガリアとルーマニアがEUに加盟した際、両国からの移入民の数の予測に英国政府がきわめて慎重だったのもうなずける。

それは、両国に対する移民制限が廃止された2014年の時点で副首相を務めていたニック・クレッグの、「私たち政府は、安易な予測を触れ回るべきではない。曖昧な推測は、移民制度に対する国民の信頼を損なってしまう恐れがある」という発言にもはっきりと表れていた。

また、一部の政界関係者は、例の予測が大幅に外れた原因は「前の労働党政権の怠慢のせい」だとした。下院公共業務精査委員会は、国際旅客調査を「当てずっぽうよりも少しましなだけ」「要領の悪い手法」と評した。

「EU離脱の是非を問う国民投票」案が現実となった2016年においても、推定値の精度はたいして向上していなかった。

国の統計部門の最高執行責任者である国家統計官を務めるジョン・プリンガーは、下院特別委員会で次のように尋ねられた。

「私たちは移住者について正確に把握できていない、ということでしょうか。つまり、この国にやってくる人、この国で働いている人、この国に定住する人、この国を去る人についての情報がないということですか?」。

プリンガーはおおむねそのとおりだと答えるしかなく、精度があまり向上していないことについても認めざるをえなかった。

人々に大きな不安を抱かせた

統計データは客観的で確かなものだと思われがちだ。だが、移住者の数が従来の推定値よりもはるかに多かった事実が国勢調査によって明らかになったことによって、数字の確かさに対する信頼は揺らいでしまった。そして、この衝撃のあとには不安が沸き起こった。

多くの人にとって、「この国はやってくる人を正しく数えられていない」と思えるこの状況は、移民問題自体が手に負えなくなっている証拠のように見えた。人というのは、あることについてのデータがあると、なんらかの権力を与えられた気になる。一方、なんのデータもないと、世の中が大混乱していると思ってしまうのだ。

※各国の通貨は、国際通貨基金(IMF)のデータをもとに、可能な限り、当時の為替レートで円に換算して( )で記しています。

ジョージナ・スタージ:統計学者(英国議会・下院図書館所属)

尼丁 千津子:英語翻訳者

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください