民主主義幻想が消えた「西洋」が没落する歴史的理由 『西洋の没落』の著者、エマヌエル・トッドの議論
東洋経済オンライン / 2024年3月13日 19時0分
ここからわかることは、いわゆる西欧(ここでは東欧も含まれる)は、人口にして12パーセントであり、残りの88%の非西欧人は西欧と同じようには考えていないということである。
その理由は、非西欧世界の人々にとって、グローバル化とは再植民地化の過程であり、非西欧には西欧とは違う価値基準が存在し、それが西欧と足並みをそろえることを拒否しているからである。
もちろん、ロシア人が彼らに好まれているわけではない。ただロシアは自らの価値を世界の価値だと喧伝もしないし、価値観を押しつけもしていないから、非西欧にとって、それは付き合い安い相手にしかすぎないのだ。
ウクライナ侵攻に関して西欧が盛んに主張していたキャッチフレーズに、「民主主義と自由を守るための闘争」だというものがあった。しかし、トッドは、それに対して、それでは西欧には本当に民主主義国というものあるのか、本当に自由があるのかという問いを発している。
西欧を西欧たらしめているものを、トッドはフランスのようなカトリックではなく、プロテスタントに求めている。だから不思議なことに、西欧の敗北の分析対象としてフランスを含めたカトリックの国は対象外となっている。対象は、ドイツ、イギリス、北欧諸国、そししてアメリカ合衆国である。
「もしマックス・ヴェーバーが主張しているように、プロテスタンティズムこそ西欧発展の動力であったとすれば、今日プロテスタンティズムの死は、西欧の崩壊とその敗北の非常に月並みな原因ということになる」(140ページ)
アングロサクソンの民主主義の変容
プロテスタンティズムの宗教精神が刻苦勉励という資本主義の精神を生み出したというのはマックス・ウェーバーが主張した有名な議論だが、一方でこの思想は人種差別主義も生み出している。
黒人差別やナチズムのような差別が強いのも、カトリック地域ではなくプロテルタント地域だ。そうした差別意識が、民主主義という概念と結びついたら、どうなるのか。
プロテスタンティズムの刻苦勉励は、選ばれたエリートを生み出し、それによる経済発展が生まれる一方、そうした精神をもたない人々に対する差別を生み出す。もし、そうした宗教精神が消えれば、プロテスタンティズムは、ただのエリート主義になりかねない。
ゼロ度のプロテスタント精神、すなわち宗教精神を欠いたプロテスタントはエリート主義に陥り、それは一方で寡占的オリガーキーの社会を形成する可能性があるのだと、トッドは指摘する。
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