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民主主義幻想が消えた「西洋」が没落する歴史的理由 『西洋の没落』の著者、エマヌエル・トッドの議論

東洋経済オンライン / 2024年3月13日 19時0分

その劣化は、アメリカ人の平均寿命が下がっていることにも現れている。2014年の77.3歳から、2020年の76.3歳に減少しているのだ。自殺、アルコール、戦争などの原因があるにしろ、1人当たりの所得7万5000ドルの国とは思えない水準である。

もちろんGNPなどというものは、ドル計算によるバブル計算にしかすぎない。金融サービスと産業が同じ金額だとしても、それが経済に与える意味はまったく違う。西欧社会は、日本とドイツを除いて産業の割合が低く、それに比べて非西欧ではその率がとても高い。実質的な豊かさを実現できていない、ドルだけもっているバブル社会だともいえる。

オリガーキー民主社会vs権威主義的民主社会

こうした現状の中で、トランプなどの右翼政権があちこちで生まれているのはなぜかという深刻な問題もある。まさにエリートの思考と大衆とのねじれ構造がそこにあるのだが、西欧社会の一般民衆がデモクラシーからネグレクトされていることにも原因がある。

政治家も一流大学を出るエリートも、今や一部のものに限られるようになり、ジャーナリズムも法律も大衆にとって不都合な物になってくる中で、大衆は絶望感に陥っているともいえる。

そして、与えられるメディア情報も事実と真逆の都合のいい情報ばかりと来ている。そうした中で大衆は、エリートが「盲目」であるのと同じく、盲目の状態に追いやられている。

そう考えると、西欧社会が民主主義的だという根拠がどこにあるのかともいえる。そしてその民主主義が、まるで絵に描いた餅であり、現実が完全に裏切られているとすれば、大衆はどう抵抗すればいいのか。まさにそれが西欧社会で分断が生み出されている原因でもある。

刻苦勉励と高尚な意識を持った選ばれしエリートが、たんなる寡占支配の無能のゾンビ(生き返った死者)の集まりになったとき、人々が怒りをもってポピュリズムに流れるのも致し方のないことなのかもしれない。

民主主義という名の西欧の幻想

また非西欧諸国の多くが、民主主義という名の西欧の幻想にうんざりしていることも確かである。民主主義と自由が、新自由主義として新しい植民地主義をそれらの国に強いてきたのだとすれば、非西欧世界が西欧的価値観に対する偽善と嫌悪の意識を持つのも当然かもしれない。

もちろん、トッドの議論は親族構造などの歴史的背景を中心に世界を考察してきた社会学的分析、すなわち各地域の歴史的構造の分析にすぎないのかもしれない。この議論で、深層的構造を説明することは可能だが、突然変化する社会構造を説明することは難しい。

だから、ややもすると極めて保守的な議論になりかねない。新しい平等や自由を求める声が、旧い構造を変化させるのでそれを拒否し、旧い構造の持つプラスの側面を評価すればするだけ、保守的思想こそ重要だということになりかねないからだ。

しかし、人間のあり方がそう簡単に変化しないことも確かだ。各地で起きている西欧的価値観の受容がうまくいっていないことが、まさにそれを証明している。グローバル化の中で人間はよく似てくると同時に、他方でますます異化していくというのも事実だからである。

西欧が没落したかどうか、今のところまだわからないが、西欧の歴史が相対化される時代が始まったことだけは確かであろう。だからこそ、トッド以外に多くの同種の西欧没落論が今あちこちで出版されているのかもしれない。コロナそしてウクライナ、そしてガザ以降、西欧の没落は必然化してきたのかもしれない。

的場 昭弘:哲学者、経済学者

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