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AI技術の進化で「教養」の価値は失われるのか AI研究の第一人者が語る「学ぶことの意味」

東洋経済オンライン / 2024年3月14日 10時0分

松尾:世の中の難しい問題が宇宙と脳の解明に集約されるというのはその通りだと思っています。現代社会で残っている謎はその2つしかないと言ってもよいかもしれません。ですから、研究をするのなら、その2つのどちらかを行うべきだと。自分も人工知能の研究をしていなければ、宇宙の研究をしていたのではないかと思っています。

ただ、後付けになりますが、宇宙よりも人工知能の研究のほうが適した道だったかもしれないと思っています。先ほどお話ししたように、「人間型知能」には強いところ、弱いところがあり、明らかに制約があります。

松尾:「人間型知能」では見えないものの見方や定式化の方法などが絶対にあるはずで、ひとことで言うと、人間はそれほど頭が良くないのです。限られた変数しか扱えないのですね。世界はいろいろなものの相互作用によって成り立っていて、それを解明するには多くの変数を扱うモデルが必要になりますが、われわれの頭では、それを見つけられていないものがたくさんあります。

そういったことが、これまでに得られたディープラーニングの研究の知見で説明できる部分というのはかなり多いです。また、われわれの言語能力というのはいったい何なのかとか、いろいろなものを知ることで見え方が変わってくるという話とも関係するのですが、そういうことがなぜ起こるのかなどもいずれ説明できるはずです。あとは理性や自由意志のようなある種の錯覚がなぜ起こるのかも説明できるようになると思います。

さらには、進化の過程で、どういうタイミングで何が起こったから人間的な知能を持つに至ったかということもある程度説明できますし、そういう意味では「われわれは何者で、どこへ行くのか」ということを説明できることになると思います。

知能を高めるために身体性は必要か

堀内:知能と身体の関係についてはどのようにお考えでしょうか。肉体があるからこそ知能がある、肉体を持っていることによって人間は学び、知識、知能を高めていくという、ある種のフィードバック・ループみたいなものがあるという考え方もあると思うのですが。身体があるということは、松尾さんの人工知能研究の中ではどのように捉えられているのでしょうか。

松尾:私は2017年頃から「身体性が必要派」から「必要ない派」に変わり、現在は知能において身体性は必要ないという立場です。というのは、「人間型知能」においては、自己保存や自己再生が暗黙に仮定されていることが多く、身体は必然になります。しかし、知能とは世界をモデル化し、予測の能力を上げることであると仮定すると、AlphaGoが囲碁の世界のみを想定しているように、目的に応じた世界の捉え方があり、目的によっては必ずしも身体性を必要としないと思っています。

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