合法的に"人をカモるビジネス"横行するカラクリ 「認知的な脆弱性を抱える人」が大被害に遭う
東洋経済オンライン / 2024年3月15日 10時20分
この現象は「非注意性盲目(Inattentional Blindness)」と呼ばれている。脳にとって注意はきわめて希少な資源なので、あること(パスの本数を数える)に注意を集中させると、それ以外のことが目に入らなくなってしまい、文字どおり「盲目(ブラインドネス)」になってしまうのだ。
自分すら信じられなくなる
脳が簡単にだまされることは、さまざまな実験で確認されている。男性の被験者に、2人の女性の写真のどちらが魅力的かを答えさせたあとで、手品のトリックで選ばなかったほうの写真を見せ、「あなたはいまこのひとを魅力的だと答えましたが、その理由を教えてください」と聞くと、大半がすり替えに気づかず、なぜその女性に惹かれたのかを滔々と説明する。
この実験は、主観がかなりあいまいで、好き嫌いはちょっとしたことで変わることと、脳は一貫性にこだわるので、「このひとを魅力的だと答えた」と言われると、その「事実」に合わせた説明を巧妙に(そして無意識のうちに)でっちあげることを示している。
こうした脳の脆弱性(非合理性)は、心理学者としてはじめてノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが行動経済学を創始して以来、近年の心理学・行動経済学研究では一大ブームになっている。その結果、(『全員“カモ”』でもきびしく批判されているように)データを偽った再現性のない研究が氾濫し、大きな問題になっている。
今後迫りくる、「AIにカモられる社会」?
だがこれは逆にいうと、「脳はどのようにだまされるか」があらかた研究しつくされてしまったということでもある。残り少ない果実に研究者が殺到した結果、データ偽造に手を染める者が現れたのだ。
「脳の癖」が科学的に研究されると、その知見をビジネスに活かそうと思う者が出てくるのは避けられない。これは、特殊詐欺やマルチ商法などの違法行為だけのことをいっているわけではない。
より大きな問題は、いまや大企業が、法律の範囲内で消費者の脳の脆弱性を利用していることだ。それも一部の「不道徳」な企業の話ではなく、大手ブランドからグーグル(アルファベット)、アマゾン、フェイスブック(メタ)などのプラットフォーマーにいたるまで、消費者を“カモる”ビジネスをしていないところはほとんどない。
より不穏なのは、この傾向が今後ますます強まるのが確実なことだ。人間以上の知能を持つようになるらしいAI(人工知能)に、収益を最大化するビジネスモデルを構築するように指示すれば、合法的かつ効率的に消費者の脳をハックする手法が提案されるのは間違いない。そのときもっとも大きな被害に遭うのは、認知的な脆弱性を抱えるひとたちだろう。
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