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合法的に"人をカモるビジネス"横行するカラクリ 「認知的な脆弱性を抱える人」が大被害に遭う

東洋経済オンライン / 2024年3月15日 10時20分

心理マーケティングで私がとくに感心したのは、ハワイの外資系ホテルで体験したタイムシェア方式のリゾート・コンドミニアムの営業だ(タイムシェアというのは、別荘を買うほどの余裕がないひとのために、1週間の利用権をバラ売りするものだ)。

知は力なり

説明係は、ハワイに魅了され3年ほど前に脱サラして家族で移住したという、とても感じのいい日本人男性だった。彼はいろんな苦労話も交えて、ハワイでの生活をざっくばらんに話してくれた。

最初はゆったりとしたロビーでコーヒーを飲みながら、余暇の過ごし方についての簡単なアンケートに答える。リゾートに来たのだから、ほとんどのひとは「いつかはハワイに住んでみたい」とか、「世界中を旅行したい」とか、そんな夢を語るだろう。

次いで豪華なホテル専用車で、超高級コンドミニアムに案内される。ベッドルームが3つもあり、ラナイ(テラス)からは海が見渡せ、ゴルフコースまで併設されている。そのあとで、5万ドル(740万円)くらいの、ちょっとがんばれば手が届きそうな物件を紹介され、タイムシェアを活用して余暇を楽しんでいるひとたちの例を次々と教えてくれた。

さらにその場で、人気の物件は残りわずかで、期間限定の割引や、滞在中に契約書にサインすればホテルから特別なギフトがあることが明かされる。そして最後に、説明会に参加した謝礼として、300ドル(4万4000円)のホテルクーポンをもらった。

ロバート・チャルディーニは心理マーケティングの古典である『影響力の武器』(誠信書房)で、好意、権威、社会的証明、一貫性、希少性、返報性の威力を解き明かしたが、さすがアメリカの会社だけあって、それらを徹底的に活用したシステマティックな営業だった。なかでもいちばん効果的なのは、説明係の日本人が、心理テクニックによって顧客を誘導しているとまったく自覚していないことだ。彼は善意のひとで、心の底からその商品が素晴らしいと信じており、ただ会社のマニュアルに沿って忠実にしゃべっているだけなのだ。

私はけっきょく、300ドルのクーポンだけもらって彼の申し出を丁重に断った。それで豪華なディナーを楽しむことができたのは、“元ネタ”を知っていたからだ(ちょっと計算すればわかるが、タイムシェアのリゾートはものすごく割高な買い物で、経済的な合理性はない)。

どんな巧妙な手品も、最初に種明かしされればだまされることはない。

本書のいちばんの価値は、同じような場面で、「なるほど、ここではこういう心理テクニックを使っているのか」と気づけることだ。「知は力なり」で、これだけでじゅうぶん購入代金の元は取れるだろう。

小さな損失を受け入れる

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