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加速主義が生み出す「頭でっかちな認知エリート」 ナショナリズムがインテリたちに不人気な理由

東洋経済オンライン / 2024年3月15日 10時0分

佐藤:「ネーション」の語源は、いみじくも「出産」ですからね。しかし戦後日本の保守は、本当にナショナルなものを守ろうとしているか。一部の例外的な人々を別にすれば、アメリカとの一体化を目指す方向に行ってしまったのが実態でしょう。そのせいもあって、サムウェア族、つまり大衆に語りかけることもやめてしまった印象を受けます。

中野:でも、大衆に語りかけるって言ったって、日本で保守と呼ばれる人たちの中には、最近SNSか何かの影響で、認知が完全に陰謀論で歪んでいる連中がいる。

佐藤:陰謀論というのは、現実認識における「幻肢」のようなものだと思いますね。幻肢とは、病気や事故で四肢を切断した人などが、ないはずの手足があるように感じること。帰属すべき共同体、ボディ・ポリティックを喪失した者は、何らかの悪の勢力が自分から共同体を奪ったと錯覚することで、欠落感を埋め合わせているのではないか。

ここで想起されるのが、今や各国の国家目標は「どこでもないどこか」から来るという、第1回の座談会で出た話です。グローバル企業のオーナーといえども、どこかの国に属しているはずなのですが、実際には「すべての国の外側」にいるとしか思えない。すなわち彼らは、存在しえない場所にいるのです。となれば、陰謀論が一定のリアリティを持ってしまうのも仕方ないことでしょう。

「総駆り立て体制」とニヒリズム

古川:哲学者のハイデッガーが言った「総駆り立て体制」のようなものですね。

佐伯啓思先生も『近代の虚妄』で論じておられますが、簡単に言えば、効率性や合理性の観念そのものが究極の目標として立てられ、それに向かってあらゆる人やモノが無限に駆り立てられるという、近代の状況です。「何のため」の効率性や合理性なのかが、もはや問われないという点で、まさにニヒリズムそのものです。ですから、現象的には、グローバル企業やそれと結託した政府が、人やモノを駆り立てているわけですが、実は彼ら自身もまた、効率性や合理性といった観念そのものに駆り立てられているとも言える。あらゆるものが、いわばどこにも存在しない「無のもの」に駆り立てられているわけです。

社会の加速化もそうですよね。価値が失われた世界において、「より速く」ということ自体が、疑似的な価値として盲目的に追求されているということです。「どうしてそんなに速くなくちゃいけないんですか」と問うても、「だって速いほうがいいに決まっているじゃないか」と。

例えばリニア新幹線なんかも、その典型だと思うんですよね。たった数十分速くするために7兆円もの開発費用をかけているそうですが、その一方で北海道にはいまだに新幹線が走っていません。これは本州で言えば東京~名古屋や京都~広島に新幹線が走っていないのと同じですから、北海道が発展から取り残されるのは当然なんです。やっと函館から札幌まで延伸されるのが2030年度の予定で、札幌以東・以北については議論にさえなりません。

かつて田中角栄が構想したように、北海道の全域にまで新幹線を延伸すれば、はるかに国土全体の豊かさや強靭さに資するはずです。なのに、まったく眼中にない。国土の豊かさや強靭さといったナショナルな価値が見失われ、ただ抽象的な「より速く」ということだけが疑似的な価値になってしまっているようにしか見えないですね。

「令和の新教養」研究会

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