日経平均「史上最高値」更新の裏で進んでいる茶番 「景気回復の実感」なき株価上昇が意味すること
東洋経済オンライン / 2024年3月16日 8時10分
しかし、日経エコーチェンバーの内側にいると、その外側にいる人たちが感じている「実感」には気づきにくい。その結果、世間の景況感とは必然的にずれてしまうのではないだろうか。
そして、そのウラで深刻な事態が進んでいる。
貯金ゼロの単身世帯は2021年から2023年にかけて、33.2%から36%に増加し、貯金ゼロの2人以上の世帯は22.0%から24.7%に増えているのだ(金融広報中央委員会の調査に基づく)。
日経平均が最高値を更新しているあいだに、貧困層の割合も増えていたのだ。
ケーキを食べればいいじゃない?
はやりの新NISAによって、投資しやすい環境が整っている。
それ自体は悪いことではないが、マリー・アントワネットの言葉を、僕は連想してしまう。
「パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない」(本当はマリー・アントワネットの言葉ではないという説もある)
そもそも、多くの人が投資を始める理由は、老後への不安からだ。
「将来、十分な年金をもらえない。2000万円足りなくなる」と言われ始めたころから、投資ブームが始まった。
ピケティの「r>g」という話もあった。労働分配の成長よりも資本分配の成長のほうが大きいから、貧富の差は拡大する。つまり投資をしている人のほうが有利になる。
そういった話を踏まえると、新NISAに政府の別の意図を感じてしまう。
「社会保障だと不十分だから、自己責任でお金を増やしてね」
そうは言っても、(実質)賃金はなかなか増えない。すると、政府はこんなことをささやくのだ。
「労働分配が少ないなら、資本分配をもらったらいいじゃない」
しかし、フランス革命時の庶民がケーキを食べられなかったように、貯金ゼロでは投資することはできない。結果的にますます格差は拡大していく。
日経平均株価だけ見ていては、そのことに気づくはずがない。
株価の上下よりも大切なもの
経済は、経世済民の略。「世の中を治め、民衆を苦しみから救済すること」の意味だったはず。
日経平均のことではないはずだ。
『きみのお金は誰のため』の中では、先生役の投資家が以下のように話している箇所がある。
うつむいて話を聞いていた七海が顔を上げた。
「投資の目的は、お金を増やすことだとばかり思っていました。そこまで社会のことを考えていませんでした。大切なのは、どんな社会にしたいのかってことなんですね」
苦笑いで恥ずかしさを隠す彼女に、ボスが優しく声をかける。
「そう思ってくれたんやったら、僕も話した甲斐があったわ。株価が上がるか下がるかをあてて喜んでいる間は、投資家としては三流や。それに、投資しているのはお金だけやない。さっきの2人は、もっと大事なものを投資しているんや」
ボスは七海と優斗を順に見つめてから、ゆっくりと続けた。
「それは、彼らの若い時間や」
『きみのお金は誰のため』152ページより
先日、“岸田総理に今すぐ読ませたい!!「きみのお金は誰のため」”というタイトルのYouTube動画がアップされていた。投稿者はなんと、自民党の参院議員・西田昌司氏だ。
西田氏の言うとおり、総理にはいち早く読んでもらいたいものである。
田内 学:元ゴールドマン・サックス トレーダー
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