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下請けに「代金減額」、日産へ注がれる厳しい視線 経済好循環を阻む「甘えの構造」に公取がメス

東洋経済オンライン / 2024年3月17日 7時50分

社会からは厳しい声が飛ぶ。島根県の丸山達也知事は3月13日の記者会見で、「日産は過去3年間にわたる減額分を返したというが、利息を払わないとダメ」「下請けは利息を払えなどと言ってこないと高をくくっている」「3年より前は確認したのか」「経済取引上の強盗だ」などと批判した。

業界に蔓延している

立場の強い発注元が発注先に厳しい価格要求をするのは、どの業界にもあることだ。とりわけ自動車業界はこうした慣習が浸透していることで知られている。日産だけが問題かというとそうではない。

2004年以降、公取が勧告した自動車業界の減額事件は今回の日産を加えると14件。これとは別に2021年には、マツダが部品メーカーから不当な手数料を徴収していたとして下請法違反で勧告を受けている。また、公取は下請け業者のコスト上昇分を適切に価格交渉しなかったなどとして、2022年にデンソーや豊田自動織機、この3月15社にはダイハツ工業や三菱ふそうトラック・バスの社名を公表している。

もっとも、事件化するのは氷山の一角に過ぎない。

「不都合なことを言ったら取引に影響が及ぶのが怖い。なかなか声をあげられない」(公取の菅野氏)のが現実だ。

自動車メーカー(完成車メーカー)が部品メーカーに対して「原価低減」などの名称で、年に2回など定期的に価格引き下げを求めることが長く行われてきた。建前としては、両者で「実のある」原価低減活動を行い、その成果を分け合うことになっており、違法行為と認定されることはほとんどない。

だが、「実際は机上の空論でしかない。しわ寄せは部品メーカーに押し付けられる」(大手系系列の部品メーカー関係者)といった不満も少なくない。単に取引価格だけではなく、在庫や金型の保有を押し付ける、即納を強いるなど、「違法とまでは言えなくても、『優越的地位の濫用』に近い行為は産業ピラミッドの上から下まで蔓延している」(自動車メーカー元役員)。

甘えの構造から脱却できるか

いびつな関係は、自動車メーカーから部品メーカーへだけではない。自動車メーカーから厳しい要求を突き付けられた部品メーカーが、さらに下請けにつけを回す。自動車メーカーが健全化に動いても、2次、3次、4次のメーカーまではなかなか恩恵が及ばない。

今回、公取は日産への勧告にとどまらず、業界団体である日本自動車工業会に対し、下請法違反行為の未然防止の取り組みを促すほか、原価低減要請のあり方などを検討し、業界全体の取引適正化を推進するよう要請した。

元日産COOで、現在は経済産業省系ファンド・INCJ会長を務める志賀俊之氏は「43年間日産にいた。下請法違反の件は明らかに違法で申し開きができない」と謝罪したうえで、「サプライヤーの努力に甘える自動車業界の構造が、日本のデフレの原因だ。サプライヤーを泣かせて原価低減をする業界慣行は変えていかなければいけない」と語る。

原価低減は日本の自動車産業のお家芸であり、競争力の源泉だった。そのすべてが違法行為とはいえないが、下請けに負担を強いてきたことは間違いない。賃上げを中小企業まで波及させるためにも、適正な原価低減に取り組んでいく必要がある。

井上 沙耶:東洋経済 記者

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