超天才と凡人「遺伝によって差を分ける」は本当か 多数の才能の持ち主を研究して見えてきた真実
東洋経済オンライン / 2024年3月19日 10時30分
この主張は意外に説得力がある。前述のイギリスにおける音楽の才能に関する研究と同様、達人を対象とした多くの研究で、調査の一環として本人やその両親にインタビューを行い、彼らの輝かしい業績のカギとなる要素を探ろうとした。こうした研究で被験者になったのは、みな卓越した才能の持ち主だ。
才能という概念を探究する
しかし、何度やっても研究者は、徹底的な訓練の前から、早熟の萌芽があったという証拠はどうしても見いだすことはできなかった。ときにはそのような形跡が表れたこともあったが、ほとんどの場合そうしたことは起こらなかった。一見、非常に才能があると思える人の例を目にすることはあった。
しかし、研究者がより多くの例をじっくり研究してみると、少なくとも専門分野でのちに素晴らしい業績を上げるようになった人たちも、そのほとんどは早い時期から才能を示していたわけではない。
同様の発見が、音楽家、テニスプレーヤー、アーティスト、水泳選手、数学者を対象とした研究でも明らかになっている。もちろんこれらの調査の成果は、才能が存在しないことを証明しているわけではないが、おもしろい可能性を示している。つまり、生まれつきの才能が仮に存在するとしても、それは重要ではないかもしれないという点だ。
ひとたび訓練が始まると私たちはその才能がひとりでに現れてくるものと思ってしまう。たとえば、他の子どもたちが弾くのに6カ月もかかる曲を、小さなアシュレイはたった3回のピアノレッスンで弾いてしまう。しかしこうした早熟の才能は、後年になって偉業を達成する人々に確実に起こっているわけではない。
たとえば傑出したアメリカのピアニストを対象とした研究で、6年間の徹底的な訓練を経たあとでも、最終的にたどり着くピアニストとしての高い能力を予想するのは困難だった。6年間の徹底的な訓練の時点では、まだ他のライバルとの間で傑出した存在になっているわけではない。結果論でいえば、彼らにはみな才能があったといえるかもしれない。しかしその才能というのは6年間の厳しい学習の後でも現れてこないものだとすれば、どうも奇妙な概念のように思えてくる。
まだ幼い自分の子どもの才能が、自発的に開花されることを両親が報告するケースがわずかばかりあるものの、その真偽は疑わしい。非常に早い時期からしゃべり、文字を読みはじめたと報告されている子どもたちのケースを研究者は検証したが、子どもの発達や刺激に親が深くかかわっていたことが明らかになっている。親と小さな子どもの異常なまでの親しい関係を考えると何がきっかけとなったのか特定することは難しい。
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