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世界最悪「有毒ガス事故」から日本が学ぶべき倫理 アメリカ企業がインドで起こした悲劇の根本

東洋経済オンライン / 2024年3月19日 15時0分

ガスを中和するために作られたガス浄化装置は待機モードになっていて、休止中。イソシアン酸メチルがガスとなった場合に焼却処分するフレア・タワー(燃焼塔)は、点検のため連結パイプを外されている。

安全のための訓練も久しく行われていなかった。本国アメリカであれば毎年行われる安全監査も行われていない。また、インド人従業員の多くは英語ができないにもかかわらず、英語の作業マニュアルの使用を求められていたらしい。

工場内と公共用の警報は連結されていなかった

警報にも問題があった。警報は2種類あり、1つは工場内の警報、もう1つはボパール市へ警報する公共用であったが、2つは連結されていない。会社内の警報のおかげで社員は避難している。一方、ボパール市民のほとんどは、ガスについて知らされず、ガスが近隣一帯を直撃した。

これが、技術者倫理の教科書で必ず取り上げられるボパールの化学工場事故の概要である。ボパールで起きた事故は、事故発生時の安全対策の不備やずさんな危機管理体制など、東日本大震災でおきた津波による原子力発電所のメルトダウンを想起させるかもしれない。しかし取り上げられる問題の観点は異なる。

事故は、ユニオン・カーバイド社の本国アメリカの安全基準に沿っていたならば、そもそも発生しなかった。アメリカで許されない、実施しない基準による操業が行われていたのではないか。

人権はどこの社会においても同じく妥当する。アメリカの労働者の人権を保護しなければならないように、インド人労働者の人権も保護しなければならない。それを怠っていたのではないか。つまり、多国籍企業の典型的な二重基準問題としてボパールの化学工場事故はまっさきに取り上げられるケースなのだ。

ナイキやアディダスでもあった二重基準

多国籍企業の二重基準はユニオン・カーバイド社に限ったことではない。

1990年代、アメリカのスポーツ用品の製造会社として有名なナイキは、インドネシアのジャカルタで、16歳以下の子供を1日わずか2ドルたらずで働かせて、運動靴を製造していた。2000年代に入っても、ドイツの有名なスポーツ用品製造会社アディダスが過酷な条件のもと子供の労働力を使ってバングラデシュやインドネシアで製品を製造し先進国に輸出している、と国際的な批判を浴びた。

ナイキもアディダスも、決して本国アメリカやドイツで子供の労働の搾取など行わない。どちらも、スポーツをする若者にとって、手に入れたい「かっこいい」ブランドであり、品質のイメージを大切にしている。それだけに発展途上国での労働の実態には唖然とするし、新たな帝国主義、植民地主義と糾弾されても仕方がない。弁解の余地はないだろう。

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