圧勝のプーチン、ウクライナ最前線の緊迫の日常 日本人写真家が見た、ウクライナ人医師の活動
東洋経済オンライン / 2024年3月19日 12時30分
先週末に大統領選挙が行われたロシア。得票率が9割に迫る圧勝という結果を受け、ウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ4州の完全併合を目指し軍事作戦を強化している。
【写真】最前線の街で診療の準備をする女医のエレナさん。2月2日 ドネツク州シベルスクにて
戦争の長期化が避けられない中、前線近くに残る住民の命を誰が守るのか。人道支援団体と連携し、危険地帯へ向かうウクライナ人医師を紹介する。
【ロシア軍による半包囲が続くバフムートの北側 】
前線地域の支援に向かうボランティアたちの実際
国際女性デーの3月8日、ハリコフ市の病院で家庭医をしているエレナ・エフレモバ(38歳)は四輪駆動車の助手席に乗っていた。目指すのはウクライナ東部ドネツク州にあるディブロバ村。片道200キロ、4時間以上の長旅だ。
「今日はこんなに待たされるのね」
ウクライナ軍が管理する検問所でエレナがつぶやいた。ドネツク州の要衝アウディーイウカが陥落したことで、ロシア軍の攻撃が激しくなっていた。やむなく、ウクライナ軍は前線に向かうボランティアの身元確認を強化していた。
エレナが出張診療を始めたのは先月2日、激戦地バフムートの北にあるシベルスク市でのことだった。その日はボランティアセンターに医薬品を持ち込み、住民16人に薬を処方した。砲撃音が響く前線を訪れたのも、防弾ベストやヘルメットをかぶったのも初めてだったエレナ。帰り際、こう話していた。
「多くの年老いた住民が病を抱えていて、悲しくなりました。住宅も爆撃を受けてボロボロでしたし、幹線道路の橋も破壊されていたし」
「前線へ行かないか」とエレナに声をかけたのは、ハリコフ在住のボランティア、ビタリーだ。ビタリーは筆者と同じ人道支援団体、マリウポリ聖職者大隊に所属している。昨年、オランダへ避難している薬剤師の妻に協力を仰ぎ、医療支援の計画を立てた。海外からも資金を募り、薬を揃えたものの、いざ現地で住民に向き合うと苦労の連続だった。そこで、幼なじみのエレナに白羽の矢を立てたのだ。
「見ての通り、俺は即断即決の行動派。逆にエレナは慎重すぎるくらい慎重だ。だから、『来週行こう!』と直前に連絡をしてみたのさ」と、ビタリーは振り返る。
私たちを乗せた車は予定より2時間遅れてディブロバ村に着いた。開戦1年目はロシア軍に占領されていたため、いたるところに地雷が埋められている。地雷撤去の作業中、「ズドーン」という爆音とともに黒煙があがることもある。これまでロシア軍の砲撃で亡くなった住民は10人。いまも14キロ先にロシア軍の支配地域が迫っている。
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