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92歳「嫌われた"球界の最長老"」広岡達朗の真実 プロ野球の「洗礼」で目覚めた広岡野球の原点

東洋経済オンライン / 2024年3月20日 11時0分

「違う、こうだ!」。広岡はノックバットを投げ、グラブを持って井上らがいる位置へ近寄ってくる。

「いいか」とだけ言って、自ら手本を見せる。ノックされた打球を、吸い込まれるようにグラブで捕球する。

あまりに無駄のない華麗な動きに、井上たちは呆気に取られた。もし野球を知らない者がこの光景を見ても、「この中で誰が一番うまいか」と尋ねられれば、誰しもが真っ先に広岡を指しただろう。

手取り足取り教えることもなく、自分で手本を示すだけ。これが広岡のやり方だった。井上がその後やらされたことは、真正面の緩いゴロを転がして捕る練習だった。

「正しく捕る型の基本を身につけさせるには、これしかない」

広岡は口酸っぱくこう言ったが、小学生にでも捕れるような緩いゴロを延々と取らされる所業は肉体よりも精神を蝕む。

日が暮れて宿舎に戻っても、広岡が手でゆっくりと転がすボールを捕らされ続ける。来る日も来る日も同じ練習をさせるが、広岡は一向に「よし!」とは言わない。「ダメだ」と言っても何がダメなのか教えることもない。

難しい打球を捕らせるのではなく、正面の緩いゴロを捕っていく練習をやるだけ。褒められることもなく、毎日血反吐を吐くまで同じ動作を繰り返していると、次第に頭の中が混乱してくる。

「基本って、なんなんだ?」

わからなくなった。基本が大事なことはわかっているけど、そもそも、基本ってなんなんだ? 自問しても答えが見つからない。

基本が身につくまでなら、いくらでも付き合う

広岡の熱心さは十二分に伝わるが、根掘り葉掘り教えてくれることもなく、毎日ノックでゆっくりとしたゴロを打つだけ。それを呆れるほど毎日繰り返すのみ。単純な作業を期限なしでやらされることほどしんどいものはない。こんな簡単な練習にどんな意味があるのか……。

どんなに考えても袋小路に行き着くばかりで、納得も折り合いもつかない。広岡の真意を探れば探るほど、わけがわからなくなる。井上がやけになろうと思ったのは一度や二度じゃなかった。

一方、広岡は、きちんと基本が身につくまで、いくらでも付き合うとでも言いたげにグラウンドでは片時もノックバットを離さない。

「わかったわ、どっちが辛抱強いか、諦めた時点で負けや」

井上は、もはや意地だけでかろうじて己を支えているようなものだった。

広島東洋カープで初めてのコーチ稼業に情熱を注いだ広岡。ヤクルトスワローズ時代に入り、ますます監督としての魅力が増していく。

*この記事のつづき:92歳「"球界の嫌われ者"の言葉」が圧倒的に響く訳

松永 多佳倫:ノンフィクション作家

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