出版業界が不況なのは「読者を見てない」から? 読者に寄り添えば、今でもブームは生み出せる
東洋経済オンライン / 2024年3月21日 12時0分
興味深いのは、こうした初期の書店は、書籍の出版・印刷・取次(出版社と書店の間をつなぐ流通業者のこと)・販売、そして古書店や貸本屋(つまり、レンタル)の機能も兼ねていたことだ。
つまり、現在では分かれている書籍にまつわる役割が未分化で、それによって「専門の作家」「専門の書店」というのもほぼ存在しなかった。現在我々が江戸時代の作家として認識できるような人々も、実は兼業であったり、同時に貸本屋を営んでいたりしたのだ。そのようなわけで、必然的に出版社と読者、作り手の距離が近かったのがこの時代であった。
こうした京都生まれの書店は、その後、上方や江戸にも伝わり、江戸時代全体を通して基本的な書店のあり方となる。評論家の小田光雄は、こうした江戸時代の出版流通システムについて、そこに「親密な書物と読者の共同体」があったという。読者と作り手の距離が近かったのである(小田光雄『ブックオフと出版業界』)。
なぜ、読者と出版社は遠くなってしまったのか?
しかし、明治以降、こうした状況に変化が起こる。明治時代になると、いわゆる出版社と書店を取り持つ「取次」が誕生する。これによって、現在私たちが認識している「作者」「出版社」「取次」「書店」「読者」という区分けが生まれてくる。
最初の取次は、1878年に誕生した良朋堂で、その数年後には現在のような取次のシステムが整えられるようになる。
とはいえ、まだ明治初期の段階では、江戸時代の出版スタイルを残しているような場合も多く、現代に見られるようにしっかりと「出版社」「取次」「書店」「読者」が分かれているわけでもなかった(小田光雄『書店の近代』)。
また、おりしも訪れていた大衆社会の訪れとも連動して、「本=商品」であるという認識も強まっていく。その顕著な例が、昭和初期に大流行した「円本」だ。
改造社が初めて発売したこの本は、いわゆる文学の名作を「一円」という安さで大量に売り、それは当時勃興してきた、サラリーマンなどを代表とする中産階級に大きく受容されたのであった。
戦争を挟んで日本が高度成長に向かう中で、こうした「消費財としての本」はますます大量生産、大量消費されるようになり、そしてそれを後押ししたのが「取次」の存在だった。
日本では、この「取次」が他国に比べてきわめて高度に発達してきた歴史があり、それによって、全国にさまざまな本が効率よく配本される仕組みが整った。そのため消費財としての本の流通が異例なまでに整ったわけである。
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