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父子家庭で父が倒れた高2のメイと支える人たち 大阪ミナミ「外国ルーツの少女」の成長【中編】

東洋経済オンライン / 2024年3月21日 17時0分

しかしその逡巡を、ウカイさんは瞬時に打ち消した。「メイの頼れる人が他にいないことは、教室での長い関わりのなかで十分に知っていましたから」

夫に事情を説明し、1カ月余りメイを自宅に泊め、高校へ通わせた。

ウカイさんはその間、メイに家事を教え込んだ。皿洗いや洗濯は、できるだけ自分でさせた。家計簿のつけ方も教えた。

「先々までメイが1人で暮らしていける力を、今つけるしかない。そのためにはウチでの合宿が一番やったんかもしれませんね」とふり返る。

メイも「ほんまに合宿。結構きびしかったで。食器洗う時に水出しっぱなしはあかん、とか」と笑いつつ、「ウカイ先生のおかげで、家事や節約のやり方がきっちりわかった。いったん生活を落ち着けることもできた」と感謝を口にする。

役所や病院での手続きにはキムさんが同行した。メイは17歳にして1人で暮らすことになり、役所からは児童養護施設に入ることも提案された。ただ、メイの意思は「このまま島之内で暮らしたい」だった。

キムさんらはMinamiこども教室のスタッフが生活を支えることを役所に訴え、島之内の自宅に住み続けることが認められた。

一連の出来事を私がメイから聞いたのは、正三さんが倒れた大型連休明けの火曜日だった。

いつも通りの教室での学習後、メイから「ちょっと」と呼び止められた。「お父さん入院してん」とメイは小声で切り出し、経緯を聞かせてくれた。気丈に話そうとはしていたが、目が潤み、声が震えていた。

軽い言葉はかけられないと自戒しつつ、私は「近所に住んでるんやから、困ったことがあったら何でも言うてきいや」と伝えた。

私が妻と2人で暮らすマンションは、メイの家から徒歩2分。ふと思い立ち、「1回、うちにご飯食べにおいでや」と声をかけた。メイも「そしたらお邪魔しよっかな」と言い、さっそく2日後に来ることになった。教室の実行委員らも承諾してくれた。

少しずつはき出される不安

木曜日、午後7時に島之内のスーパー前で待ち合わせた。メイはいつもと違って口数が少なく、笑顔も硬い。私の妻に初めて会うことに緊張していたそうだ。

とりあえず、野菜と鶏肉、卵、デザートのいちごを買って自宅へ向かった。妻も最初は少しぎこちなかったが、メイと一緒に食材を切り、鶏肉と野菜の炒め物を作るうち、自然な言葉を交わすようになった。

メイは生まれて初めての卵焼きにも挑戦し、菜箸でうまく丸めたできあがりを見て、ようやく普段通りの笑顔を見せた。

小さな食卓に料理を広げ、3人で囲んだ。自分で作った炒め物を、メイはおいしそうに食べた。遠慮しつつもご飯をおかわりした。

はじめは、高校での出来事など当たり障りのない話をしていたメイだが、家の状況についても誰かに言いたかったのだろう。

高校への納付金や家賃の支払い、生活保護費の受け取り、父親の見舞い、1人暮らしの家事のことまで、突然抱えることになった暮らしの悩みを、少しずつはき出していった。

「なんかな、ついぼーっとしてしまうねん。あんまり今の状況を正面から受け止めてしまったら、しんどくなるから」

メイがもらした言葉に、私と妻は黙ってうなずくことしかできなかった。

2時間ほど話し込んだ後、あまった食材を持たせ、午後9時すぎに家へ帰した。妻と私は「とりあえず、初めの1回ができてよかった。これからもっと気楽に来てくれたらええんやけど」という意見で一致した。

*次回へ続きます

玉置 太郎:ジャーナリスト

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