令和の今も作成依頼「デスマスク」への遺族の想い 夏目漱石の死に顔やコロナで逝った少年の手形も
東洋経済オンライン / 2024年3月21日 11時0分
最も多い依頼は故人の子供や配偶者からのものとなる。90代で亡くなった母の姿を残したいという女性や、開業医だった父のデスマスクを取ってほしいという跡継ぎの男性、若くして病死した夫に側にいてほしいという女性など、依頼の背景は様々だ。
親からの相談もある。たとえば、2022年の夏に届いた依頼は若い女性からのものだった。8歳になる息子が新型コロナで倒れ、3カ月の闘病の末に帰らぬ人となってしまったのだという。
権藤さんは「自らネットで検索して依頼される人がほとんどです。クチコミや葬儀社からの紹介といったケースはほぼありません。デスマスクや手形を残すという選択肢に気づいていない人がまだまだ多いのではないかと思いますね」と語る。
アトリエには、90年以上の人生を歩んだ人の面や、あどけなさの残る少年の手形の試作品が残されていた。いずれも細部を眺めれば眺めるほど生々しさが感じられる。
ただし、かつてのような故人の顕彰を目的とした依頼は少ないそうだ。大半の依頼者はプライベートな目的で故人の面影をとどめたいと考えているようだ。それを裏付けるように、工房には門下生や部下のような、遺族や親族以外からの依頼はまだ一度も届いていないという。
「面影を手元に置いておきたい、というより、愛する故人に『そばにいてほしい』というほうがニュアンスが近い気がします。デスマスクや手形にすれば、その人らしさが立体で帰ってきます。そこに価値を求める人が多いのではないかと思いますね」(権藤さん)
権藤さん自身、母が亡くなって遺骨になった後で「デスマスクを取っておけば良かった」と後悔した経験を持つ。その思いと、若い頃に美術学校とイタリア留学で学んで育んできた彫像の技術、定年まで働いた葬儀社での経験が重なって工房スカラベを立ち上げるに至った。
石膏像は1カ月で納品
依頼を受けると、権藤さんは故人が安置された自宅や斎場に向かい、依頼者を含む遺族の前で顔や右手の型を取る。遺族や親族の同意がなければ事を進めない。依頼者には事前に周囲に同意を得ることを求めているが、葬儀の折に急いで駆けつけた親族すべての意向を確認するのは難しい場合もあり、現場でキャンセルされたことも数回あるそうだ。
また、故人が伝染病を保有している場合も対応しない決まりだ。先のコロナで亡くなった少年のケースでは、ウイルスの影響がなくなっているという医師からのお墨付きがあったため、通常通りに進めることができた。
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