5年に1度の財政検証、次の年金改革の目玉とは? Q&Aで考える「公的年金保険の過去と未来」(下)
東洋経済オンライン / 2024年4月1日 9時0分
これからのヤマ場は、適用除外規定を持つ年金をはじめとした社会保険制度そのものが、市場において使用者との「交渉上の地歩(bargaining position)」が弱い労働者を低賃金・非正規雇用にすることを促し、格差、貧困を生む原因となってきた問題を克服するための勤労者皆保険の実現になる。
「厚生年金ハーフ」で勤労者皆保険を実現せよ
これは上編で論じた勤労者皆保険を提示した自民政調報告書にあるように、「所得の低い勤労者の保険料は免除・軽減しつつも、事業主負担は維持する」という厚生年金ハーフの形をとる。これは、社会保険の本家であるドイツが導入しているミニジョブと類似の形であり、保険料の負担に労使折半の形をとってはいない。
この点、過去を検討して、「本来」「そもそも」の根拠を求める手法に馴染んだ法律家には理解が難しいことは想像できる。彼らの中には、2004年年金改革時のマクロ経済スライドにも、最初は無理解を示す人が多くいた。彼らが手にしている学問の手法では、必然、後追いの理解になるのであろう。ちなみに、勤労者皆保険の形は、健康保険との整合性も容易にとれる。
具体的に言えば、3号は配偶者の被用者保険に、1号は国民健康保険にカバーされている。勤労者皆保険で徴収した使用者負担の健康保険料は、彼らが利用する健康保険に拠出する。となれば、短時間労働者を雇っている企業からすでに被用者保険を適用している企業に保険料がシフトすることになり、勤労者皆保険の支持層は広がることになる。
今年は公的年金の財政検証の年である。これから、年金改革論議は賑やかになっていくのだろうし、不安産業、特にメディアは、過去にトンデモ年金論を唱え、間違いを正され、ゆえに(?)今はとにかく「年金の王道の話は歪んでしか見えない」(『ちょっと気になる社会保障 V3』9ページ)日本の年金を悪く言う人たちを重用していくのだろう。メディアの多くも不安産業の一部をなしている現代では、それは仕方がない。前回2019年の財政検証後の連日の報道もそうであった。
日本の公的年金は、事業主負担を避けようとするレントシーカーとの戦いであった。強いレントシーカーを前に、日本の公的年金改革は、他国では例をみることがない、非正規を生む原因として存在し続けてきたのである。そのことを多くの人たちが十分に理解しておかなければ、これまでの歴史を繰り返すだけである。
年金部会は、財政検証と年金改革のために5年サイクルで開かれるのであるが、5年前の最後の年金部会(2019年11月)で次のように話していた。
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