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「東京ミドル期シングル」とはどんな人たちなのか 「地縁血縁」を嫌ってきた人たちと「孤立化」

東洋経済オンライン / 2024年4月3日 9時0分

ここからは少しばかり私の偏見が交ざる。

男性シングルはコミュニティ感覚が薄い。これはいまだに会社に身も心も依存するよう飼いならされてきた結果ともいえる。それにコミュニティは経済とどこか折り合いがよくない。会社にアイデンティティを担ってもらえるうちはいい。相手にしてもらえているうちはいい。

やがて人は年をとる。会社とともに社会的自我を形成した人たちも、やがて静かに職場を去り、中には介護が必要な場合さえ出てくる。その後どうなっていくかは、なんとなく想像のつく通りだ。いわば無縁に陥るリスクである。どれほど会社で高位に昇進しても(あるいは昇進した結果として)、船を下りたら、会話する相手がいない状態である。

本書によれば、「介護が必要なとき誰もいない」と答えたのは、女性12%に対して男性27%と2倍を超えていたという。

その意味するところは社会の分子化である。社会は一種の意志なくして成り立たないから、自然環境とそこは根本的に異なる。

一方で、ミドル期および高齢シングルが増加することを前向きに捉え、シングル向けの各種サービスを官民共同で創設することができれば、東京区部がシングルフレンドリーな場になる可能性もあるという。

確かにそうだ。

そもそも地縁血縁を嫌って、東京の無縁に憧れてきた人たちが少なくない。もっと言えば、家族さえ重荷に感じている。「東京で無縁仏になるしかない」という声も紹介されている。

家族のみならずコミュニティは本来的に「臭い」ものだ。その臭気に蓋してしまえるなら、ぜひそうしたいと考えるのも無理からぬところである。「謳歌している」人々だって少なからずいるはずで、それらは断固たる意志の結果でもある。

こう考えると、そもそも「問題」として理解すべきなのかという、それ自体根本的な問題に立ち至ってくる。

パンデミック後の「東京ミドル期シングル」

いずれの問題にせよ、基本スタンスとして多様な価値の問題に本書はあえて踏み込んではいない。客観状況をありのままに提示して、後は読み手に考えてもらう。

それがたぶん正解なのだ。

一つ気になることがある。近年のパンデミック後の言及に限定的なことである。今となっては懐かしい「ソーシャル・ディスタンス」でコミュニケーションに大きな変化が生じたのは衆目の一致するところだが、「東京ミドル期シングル」はどうなったのか。コミュニティを加速したのか。新しい親密圏を生み出したのか。

気になる。とても気になる。

これはこれでスリリングな課題であるが、その姿が見えるまでに10年はかかるのだろう。

井坂 康志:ものつくり大学教養教育センター教授

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