あの「ミキモト」イメージがガラリと変わったなぜ 業界も驚いた斬新なコラボが契機になった
東洋経済オンライン / 2024年4月5日 11時20分
老舗ブランドがトップとして輝き続けるには、伝統に裏打ちされたフィロソフィーを貫きながら、時代に先駆けた活動をしていくこと――いわば「変えてはいけないこと」と「変えていくこと」の双方のバランスを取りながら実践することが求められる。
この難しい課題について聞いたところ、「変えてはいけないことは、ブランドが持っているヒストリーと、業界のオピニオンリーダーであるというポジションです」と明快な答えが返ってきた。
ミキモトは、1893年に世界で初めて真珠の養殖に成功し、今年で131年を迎える老舗ブランド。創業者である御木本幸吉氏は、「世界中の女性を真珠で飾りたい」という夢を描き、ミキモトを立ち上げた。
当時、天然真珠は1000個の貝の中に1個あるかないかという大変希少な存在だったものを、養殖によって生み出すことはできないかと試行錯誤を繰り返し、世界で初めて実現したのである。
一方、開国によって欧米文化が流入してはいたものの、ジュエリーは庶民にとって、まだ遠い存在だった。そんな中、御木本氏はヨーロッパのジュエリー文化を日本に導入しようと、職人をヨーロッパに送り出し、ジュエリーのデザインや技術を徹底して学ばせたのである。「これは大きな産業になるという先見性を持っていたのです」(中西さん)。
そして、ヨーロッパのジュエリー文化を日本に紹介しながら、日本独自の技と創造性をのせた「ミキモトスタイル」とも言えるものを確立した。世界から認められるトップブランドとして、確固たる地位を築いたのである。こういったヒストリーについて、中西さん自身が折に触れて話すようにしているという。
もう1つの「変えてはいけないもの」は、業界のオピニオンリーダーであるというポジショニングだ。「看板があるという最大の強みが、そこで止まったり、安心してしまうことで、最大の弱みに変わってしまうと戒めています」。
だからこそ、世界で初めての挑戦について、ここには未来があるという確信を抱いて挑んでいく。フロンティアであり、イノベーターであるという精神を忘れてはならないという。
新たな発想を持つにはセンスを磨くことが肝要
一方、「変えていくこと」については、あくことなき挑戦への姿勢と言える。「ここ数年で、社員が挑戦を恐れなくなり、恐れず前に進むようになってきたのは嬉しい変化です」(中西さん)。
コラボレーションが1つの契機になって、社内の空気ががらりと変わってきた。このエネルギーを風土として根づかせていくことが大事と中西さんはとらえている。
「未来に向けた発想を持つには、個人としてのセンスや感度は欠かせない要素。若い人たちにも、新鮮な視点を持ってどんどん活躍していってほしいと考えています」と中西さん。「経営も勘や感は大事な要素のひとつですが、社員にもそこは強く意識してほしいと思っています」。
一連の話を聞いていて、日本が世界に誇れるラグジュアリーブランドの先には、明るい道が拓けていると感じた。
川島 蓉子:ジャーナリスト
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