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「子どもへの医療」こそ、世の中で"最高の投資"だ カンボジアの医療に学ぶ"お金のリテラシー"

東洋経済オンライン / 2024年4月6日 9時40分

手術前の1歳小児がん患者の男の子。「投資のエバンジェリスト」加藤航介氏が、国際的な寄付やボランティアよりお金のリテラシーを考察する(写真:ジャパンハート提供)

アジアの最貧国の一つであるカンボジアでは、寄付金を原資に小児がんの治療を行っている国際医療NGO「ジャパンハート」が医療拠点を構える。

2024年より新NISAが始まり日本では新しい「お金の社会参加」が盛り上がりを見せているが、寄付や投資を通じてお金を人に託すという本質とは何なのか――。

国内外の投資会社でファンドマネージャーや投資啓発などの要職を20年経験後、投資の研究と教育を行うWealthPark研究所を設立した加藤航介氏。

英米で10年を過ごし、世界30カ国以上での経済・投資調査の経験を持つ「投資のエバンジェリスト」加藤氏が、国際的な寄付やボランティアよりお金のリテラシーを考察する。

カンボジアで年100人の小児がん患者の命を救う活動

日本から飛行機を乗り継いで10時間。カンボジアの首都プノンペンから、車で約1時間北上した先に、ウドンという街がある。

【写真で見る】カンボジアの医療、そのリアルな現場の写真

ここには国際医療NGO「ジャパンハート」の医療センターがあり、小児がんの治療を中心に活動をしている。

日本では8割が治ると言われる小児がんだが、社会インフラや医療サービスが乏しいカンボジアでは2割しか治癒しない。

ジャパンハートの活動は、年間10億円程度の寄付金、日本からの定期・不定期で訪れる医師などのボランティアスタッフ、そして現地メンバーを中心とした有給スタッフで運営されている。

医療資源が限られるなか、高額な設備投資が求められず、治療薬も入手可能である小児がんを中心とした治療体制を敷くことで、現在では年間を通じて常時30名が入院、年間では100名の小児がんの治療が行えている。

小児がんに対する国際連合や世界保健機構の姿勢も後押しし、「小児がんは治る病」という認知もカンボジア現地で広がりつつある。


筆者の加藤氏と編集者で訪れた「ジャパンハートこども医療センター」(カンボジア)の玄関にて。インタビューは現地で行われた。左が神白(こうじろ)院長。

同拠点はカンボジアにおける小児がん治療のパイオニアかつリーダー的存在であるも、施設を回れば、その医療環境が日本と比較して驚くほど粗末であることがすぐわかる。

常時30度を超える気温の中で外来の受付は屋外にあり、一部の治療も屋外で行われている。

整備された手術室はあるものの、入院病棟では10人もの子どもが同部屋に入り、各々のベッドの横ではその保護者が、長ければ数カ月の間寝泊まりをして看病に当たっている。

施設を一通り案内してもらったあと、院長を務める神白(こうじろ)先生に「日本と比較して、医療サービス提供における最大の制約はなんでしょうか?」と尋ねた。

足りないのは「現地の人材です」

足りないものは、施設や医療機器や薬剤なのか、はたまた資金そのものなのか。

私が想像していた答えとは裏腹に、神白先生は「それは現地の人材です」と言い切った。

カンボジアでは、約40年前の1970年代後半のポル・ポト政権のクメール・ルージュ下で、教育や医療のシステムが一度、すべて壊されている。

全人口の4分の1に当たる170万人が虐殺されたといわれるが、家族農業回帰を掲げるポル・ポト政権が徹底的に粛清を行ったのは教員、弁護士、医師などの知識層であった。

当時は、大国同士が争うベトナム戦争末期でもあり、国際社会の認知や支援が滞ったという悲運も重なった。

結果、現在のカンボジアでは、本来であれば現場や後輩の育成に最も活躍しているべき40歳以上の医師が、十分な教育や臨床経験を積んでおらず、またその絶対数も少ない。

ゼロから「教育の仕組み」を作るのは40年でも足りない

神白先生らジャパンハートが立ち向かっている課題は、「20代の若い医師や看護師を現場で育てながら、目の前の子どもを救わなければならない」という人材面の課題であるのだ。

「カンボジアでは、医療従事者を育てる教育機関の数自体は増えてきていますが、人の育成の問題はすぐには解決しません」と神白先生は語る。

「たとえば、カンボジアのクメール語には“甲状腺”を指す単語が存在しません。卵巣も『子宮の横』と表現するなど、医学のボキャブラリーが不足しているのです。このように医療の蓄積が充分でないので、今でも現地語で幅広く医療教育をすること自体が難しいのです」

ジャパンハートは、カンボジアよりさらに貧しい国とされるミャンマーにも拠点を持つが、「ミャンマーと比較しても、カンボジアは医療教育の蓄積が極めて低いのです」と神白先生は言う。

資金さえあれば、病院や手術室を建設することや、薬や医療機器を用意することはできるかもしれないが、人を育てるには何年もの月日がかかる。

さらに人を育てる「教育システム」をゼロから作り上げるのは、40年という月日があってもなお足りない、ということである。

驚いたことに、カンボジアには日本では当たり前の「栄養士」と言われる職業も、その教育課程もない。

衛生的で栄養のある食事の提供は、とくに小児がん治療後の免疫が落ちている子どもたちには生死にかかわる問題であるが、その提供を病院外に頼ることができないのだ。

同施設では自前での給食センターを設置しているが、このような医療周辺のインフラも日本と大きく異なっている。

それでも過去から見れば「夢のような世界」にまで前進

そんなカンボジア医療の厳しい現実を説明してくれたあと、神白先生は一呼吸を置いて、こうも語ってくれた。

「いろいろと不便があるように思われるかもしれませんが、過去から見れば我々は信じられないくらい前進しているんです」

「現在、年間100名もの小児がん患者に向き合えています。これは2016年にカンボジアで病院を開いた当時から考えると、夢のようなことが起きているとも言えます」

病院を回ると、個人や法人の寄付によって整備された病棟や施設を多く確認できる。

また、病院の周辺にある現地の商店や住居と比べても、病院の建物がいかに立派なものであるかもわかる。そしてスタッフ総勢100名の規模の組織が医療サービスに動いている。

寄付という「社会からの応援」、そして「スタッフの献身的な活動」により、ジャパンハートのサービスは着実に前に進んでいるのだ。

「現場で一人ひとりの命を救うことが、我々の使命です」

一方、ジャパンハートのような国際医療NGOに対しては「意外な声」があることも神白先生は教えてくれた。

「ジャパンハートの医療活動を見られて、“カンボジア全体の医療システムや公衆衛生を変えないと意味がない”と苦言を呈される方もいるのです。チマチマと一人ひとりの患者を見ても、根本的な解決にはならないというご意見です」

しかし、と神白先生は続ける。

「それは正論ではあるのですが、その問題解決には他の主体が努力されています。我々は『現場で一人ひとりの命を救うことが使命だ』と考えていますし、そのような強い想いがなければ、アジア各国での医療活動をここまで続けてくることはできなかったと思います」

「我々が大切にしていることは『人の営みが人を幸せにできる』ということです。そしてこの組織では、スタッフも患者さんも幸せにしたい。医療ですので、子どもの命が助からないこともあるのですが、そのご家族には『この場所でケアしてもらった』という想いが残り、それがカンボジア社会の価値になっていくのだと思っています。今までもこれからも、一歩ずつ歩みを進めていけば、新しい世界が見られると信じています」

カンボジアの医療現場での課題、ジャパンハートの国際医療ボランティア活動、そして神白先生の言葉から我々は何を学ぶことができるのだろうか。

筆者は、以下のような「3つの大切なこと」を感じることができた。

寄付・ボランティアから学べる「投資のリテラシー」

① 「個人のお金による社会参加」の大切さ

ジャパンハートの活動の原資になっているのは、寄付という個人の「お金の社会参加」だ。

一人ひとりの影響力は小さくとも、その力は確実にカンボジア医療を前に進めている。

投資や寄付など「お金を人に託す」という活動は、社会を前に進める正しい活動である、と改めて認識をした。

② 社会へ向かわせるお金に「手触り感」を持つ大切さ

「お金は稼ぐよりも使うほうが難しい」という格言があるが、それは個人の人生観がより表れるからだ。

今後の日本では「貯蓄から投資」の考えが浸透し、今までの預貯金に代わり、世界株式や世界債券のパッシブファンドを長期保有することが、より民意を得ていくだろう。

現在のパッシブファンド投資は、少額から、スマホから、手数料なしで、高度な国際分散投資が可能であり、過去から見れば大変に素晴らしい、夢のようなことが可能である。

ただし、これだけ便利になり、また投資したら「ほったらかし」が好ましくあるため、社会の応援やモニタリングという投資本来の「お金の社会参加」への理解は乏しくなっていくだろう。

そのような新しい時代だからこそ、寄付などの意思を込めたアクティブなお金の社会参加を通じ、「自分が社会にお金を投じている」という手触り感を学習することが大切ではないだろうか。

③ 「若者への投資」の大切さ

カンボジアにおける医療提供の一番のボトルネックは、若者に十分な医療教育が提供できていないということだ。

また、ジャパンハートの活動は「子どもの命を救い、その未来を開く」という「若者への投資」にほかならない。

世の中には、たくさんの投資がある。「株式投資」「不動産投資」「自己投資」「設備投資」「研究開発投資」などなど。

どの投資も社会的に大切だが、子どもを含めた「若者への投資」が豊かな社会へ向けて最重要であることを改めて認識した。

「投資」と「寄付」は「利己」と「利他」という真逆のものと思われがちだが、どちらも社会へ意思をもってお金を投じるという同一の活動である。

さらに突き詰めると、投資は人や社会を豊かにするためという「利他」の概念へ、寄付・ボランティアは自分のために行う「利己」の概念に行きつく。

我々が日々の行動でできることは何だろうか?

毎月のつみたて投資額の100分の1でも1000分の1でもいいので、投資と同時に「寄付というお金の社会参加」を人生に取り入れることには、大きな意味があるだろう。

それは結果として、「個人の投資リテラシー」や「お金と社会の理解」を大きく高め、長期の資産形成を大きな成功に導くことになるだろう。

加藤 航介:WealthPark研究所代表/投資のエバンジェリスト

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