「失言しても許される」"暴言首長"の命運分ける差 なぜ泉元市長は許され、川勝知事はダメなのか
東洋経済オンライン / 2024年4月9日 12時0分
そうしたバッググラウンドが影響しているかはわかりませんが、川勝氏による県入庁式での職業差別ともとれる暴言は、どことなく上から目線であることを市民に感じさせ、激しい批判にさらされました。
川勝氏といえば、国家プロジェクトであるリニア計画の静岡区間事業に対して頑強な抵抗を見せて何かと注目される存在。このリニア計画への抵抗姿勢自体にはさまざまな意見があり、批判だけでなく支持する声もありますが、県入庁式での暴言は大批判一辺倒となりました。擁護の声はまったく見られません。
「失言が本音だった」と解釈される危険性
フロイトは古典『精神分析入門』において、言い間違いのような錯誤行為はただのミスではなく、心的葛藤であると述べています。つまり意図せず言い間違いをしたとき、本音が隠れている可能性もあるという意味です。川勝氏の場合はどうでしょうか。
発言が問題となってからの最初の釈明会見では、川勝氏は謝罪や発言の撤回はせず(4月3日に謝罪、5日に発言撤回)、自身の非を認める姿勢は見えませんでした。「(発言は)切り取りであり誤解」と釈明し、(自らの発言を)「職業差別ととらえる人がいる」「職業差別であるというふうに理解する人が急速に増えているが、これは不正確」と言い訳に終始。
これは謝罪とはまったく異なるものです。謝罪というよりも、自分の発言を曲解するほうが悪いという説明です。
辞意表明についても、最初はあくまでそれは引責ではなく自らの仕事の一区切りであるという趣旨でした。そうなると、フロイトのいうところの「心的葛藤」によるつい湧き出した本音どころか、言葉通りの意図をそのまま発したと解釈されてしまいます。
知事職を辞する表明に追い込まれたのは、失言で燃え上がった炎上の火消しが失敗したからと見るべきでしょう。
反対に、泉元市長は辞職に際し、心からのお詫びと暴言の責任を取ることを表明しました。明確に自らの責任であることを認めた謝罪だといえます。辞職表明の後には、明石市役所に「辞めないで」という電話やメールが届き、SNS上では泉氏の引退を残念がる投稿が相次ぎました。
2人とも“暴言”首長ではありますが、きちんと謝罪をするかしないかで命運が分かれました。謝罪の有無がその人の印象や評価を大きく分けた原因だといえるでしょう。
謝罪はテクニックではなく、BCP(事業継続計画)だと私は言い続けています。泉氏は結果としていまだに国政への復帰を願う声があったり、テレビなどメディアで見かけたりすることが増えています。
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