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村上を孤独にさせなかった名指揮官の「伝える力」 「オレはお前と心中だ」栗山英樹が下した覚悟

東洋経済オンライン / 2024年4月11日 16時0分

栗山英樹さんが、北海道の栗山町に造った少年野球場「栗の樹ファーム」での一コマ。愛犬と一緒に柔らかな笑顔を浮かべる栗山さん(撮影:塚田亮平)

2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で、監督として侍ジャパンを指揮した栗山英樹さん。「世界一」への期待を一身に受ける中、不振が続いていた日本の主砲・村上宗隆選手を、栗山さんが「信じ切る」ことができた理由とは? 村上選手が劇的な逆転サヨナラ打を放ったWBCの準決勝、メキシコ戦での舞台裏を、書籍『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』から、一部引用、再編集してお届けします。

「最後は誰でやられたら、納得がいくか」

たくさんの選択肢がある中で、監督は瞬時に次の判断をしなければなりません。バッター村上になった場面で、僕の中に浮かんだのは、これでした。

「最後は誰でやられたら、納得がいくか」

それは村上でした。若くして頑張っていて、これから日本を背負うバッター。

大会が終わったとき、村上が世界中から評価され、メジャーリーガーの翔平や鈴木誠也、吉田たちと同じレベルに見られる。僕はそう思ってやっていて、村上にもそんな話をしていました。

点を取れる確率がそれほど変わらないなら、最後は人なのです。彼の生き様、そしてそれがもたらしたもの。もし、村上でやられたら、僕は納得がいくと思いました。「よし、ムネと心中だ」と思ったのです。こいつがやられても、「これしか選択肢がなかった」と思えるかどうかだ、と。

信じてもらえるということの大きさを、僕は知っていました。「さぁ、行ってこい。オレはお前を信じた、お前で決めてくれ」という思いが、いかに大きなものなのか。それを知っていました。

村上が待っているところに、僕は城石憲之コーチを送り込んでいました。そして戻ってきた城石にこう伝えました。

「すまない。もう一回、ムネのところへ行ってくれ。『お前が決めろ』と、もう一回、言いに行ってきてほしい」

選手というのは、まわりがバントを準備していたりすると、代えられるかもしれない、という空気をつかんでしまうものです。だから、そのすべてを消させて、覚悟を伝えたかった。僕の覚悟を伝えるという作業が必要でした。

「決めるのは、お前なんだ」ということです。それでも、結果が出るかどうかはわからない。

ただ、意外なことにあの正念場で、僕は案外、ドキドキしていませんでした。「オレはお前と心中だ」と決めていたので、けっこうゆったりしていたのです。

「お前でやられたら、オレは納得がいく」

監督として選択をして、選手を送り出したとき、「やっぱり違ったかな」と迷うことがこれまでなかったと言えば噓になります。しかし、あのときは一切それがなかった。

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