国策ラピダス「補助金1兆円」注ぐ至難技術の成算 535億円投じる「後工程」でブチ上げた開発戦略
東洋経済オンライン / 2024年4月16日 7時0分
業界では「先端パッケージング」と呼ばれており、AI半導体として有名なアメリカの半導体メーカー・エヌビディアのGPUにもこの技術が使われている。
量産のハードルは高い
「(ラピダスが目指しているものは)正直に言って非常にハードルが高い。サンプルレベルなら可能かもしれないが、量産となると2027年までにはとても間に合わないのではないか」
東京工業大学でパッケージング技術を研究する栗田洋一郎特任教授は、今回ラピダスが明かした戦略をこう評価する。
先端パッケージングの中でもとくに性能やコストを左右するのは、複数のチップをつなぐ土台の役割を果たす「インターポーザー」と呼ばれる部品。今回、ラピダスは「600ミリパネルを使った樹脂製のインターポーザー」を用いた開発を行っていくと明かした。小池社長は「従来品と比べて10倍の枚数が取れるため大幅なコストダウンにつながる」と強調した。
実現できれば、高性能化に加えて製造コストも大幅に削減できる夢のような技術だ。開発では、ドイツにある欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファーなどとの連携も打ち出した。
だが栗田氏は「ラピダスが開発しようとしているのは、(提携相手の)フラウンホーファーが2022年の学会で『これ以上の高性能化はできない』と結論づけたスペック以上のものだ」と解説する。
これまで栗田氏は、ルネサスエレクトロニクスや東芝などでパッケージング技術開発を行ってきた。NEC時代には、現在量産されている樹脂製のインターポーザー技術を提案し開発を進めた、いわばこの技術の生みの親でもある。
それほど難易度の高い技術だけに、パッケージング技術でも先頭を走るTSMCでもいまだ研究開発の域を出ない。コストや性能面でのメリットは多いものの、いつ量産技術として採用できるかさえ不透明だという。
TSMCも後工程への投資を強化
技術を確立できたとしても、ビジネスとして軌道に乗るかどうかは別の問題だ。装置の納期などを考慮すれば、実際の開発が始まるのは早くとも今年末以降。前述のような難易度の技術の習得は来年4月の試作ライン稼働のタイミングにはまず間に合わないうえ、2027年までに量産体制を整えるハードルもかなり高い。
たとえ量産体制を整えたとしても、そこには競合の壁が立ちはだかる。
現在、世界中で開発競争が過熱している高性能なAI半導体に先端パッケージングは必須。それだけに、最大手のTSMCは後工程分野への投資も強化中だ。同社は急ピッチで新工場を建設し製造能力を拡充、エヌビディアなど既存のAI半導体メーカーのみならず新興メーカーなどの需要も吸収し、顧客の囲い込みを進めている。
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