ふかわりょうが"サイテー男"の小説に込めた思い 「B面があるからA面がある」その言葉の真意は
東洋経済オンライン / 2024年4月17日 12時20分
同じ『いいひと、辞めました』という題材で、10年前のふかわさんと、今のふかわさんではどのように描き方が変わっていたのだろうか?
「教科書に載るような偉人たちが功績を残している一方で、プライベートは破綻していたりする。
現在、そういう事象を、たびたび耳にします。今、そういった現象に直面したとき、社会はどのように判断するかという局面に来ている。そういうところは10年前だったら、多分織り込んでいなかったと思う」
たとえば、作品の中では、ドストエフスキーやベートーベン、石川啄木など、誰もが知る世界の文豪や作曲家、画家たちのサイテーな私生活のエビソードがずらりと並ぶ。
「過去の偉人たちは、ファンタジーになっちゃってるわけじゃないですか。
天才だったら何をしてもいいとは思っていないですが、A面を享受している私たちが、ひとたび、B面が気に入らなくなった時に、そのレコード自体を破棄してしまうのですか?と。今、そこを問われている気がするんです。
B面があるからこそ、A面がある。そのことに、もう少し冷静に向き合いたいなと思っている」
小説だからできた表現
近年は、エッセイを立て続けに発表していたふかわさんだが、今回は小説。
そのため、自分のことを書くわけではないという前提がありつつも、「小説だからこそ、エッセイでは書けないこと、つづれない本音の部分もある。
それはあくまでも僕側のモチーフであって、読者にはあくまでエンタメ作品として楽しんで欲しいです。
ただ、そういうモチーフがあることが、自分の中で執筆のモチベーションになる」
とはいえ、登場人物たちに具体的なモデルはいない。
「曲づくりと一緒で、自分の中に完全オリジナルがあったとしても、これまで無意識に吸収してきたものが、何らかの形で投影されていると思うので、小説もそれと同じだと思う」
前述の通り、ふかわさんのアウトプットする領域は、テレビ、ラジオ、音楽、エッセイなど幅広い。
ふかわさん自身が経験したこと、感じたことをどのように出し分け、使い分けているのだろうか?
「僕自身、“原液”は1つしかない。テレビではこれくらい薄めて、ラジオではこれくらいの濃度で……と、あるのは濃度やフィルターの違い。
僕の奥底には、幼少期の頃から原液のようなドロドロッとしたものがあって、それの希釈の違いだけなんです。
たとえば、テレビだったら、自分がMCで出るときとゲストとして出るとき、自分の話をするときと人の話を聞くときなど、その濃淡はその瞬間瞬間で変わるものかもしれないけれど、その都度判断している。
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