崖っぷち「イカ王子」民事再生後も目指す再起 窮地が続く東北被災地の水産業を伝え続ける
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 11時0分
夜の街での仕事から一転、毎朝まだ暗いうちからトラックを運転して魚市場に向かい、イカを買い付け、加工場に戻ると1日中、従業員たちと一緒にイカをさばいた。
「まるで刑務所にいるみたいだ……」
仕事にやりがいを見いだせず、「ここが俺の居場所なのか」と自問自答を繰り返した。「いずれは社長になるしかないんだろうな、と思いながらも、こんな中途半端な人生はつまらない。このまま終わりたくない。そんな気持ちがくすぶっていました」。
そんな鈴木さんの日常を一変させたのが、2011年の東日本大震災だった。
家族や従業員、加工場は無事だったが、魚市場や漁港は津波で大きな被害を受け、駅前の商店街はがれきに埋め尽くされた。
鈴木さんの友人や取引先も犠牲になり、廃業を余儀なくされる取引先もあった。共和水産も在庫を保管していた冷凍倉庫が津波で流出し、1億3000万円の負債を抱えた。
だが呆然としている時間はなかった。復旧・復興に向けた動きが始まり、市内の事業者や住民、議員などに混ざって鈴木さんもさまざまな会議に招集された。
するとそこでは誰もが「宮古は水産のまちだ」「水産業の復興なくして宮古の復興はない」、そう口を揃えた。市民にとって水産業が重要な産業なのだということを実感した瞬間だった。
「震災が起きて初めて、自分は宮古という水産のまちのど真ん中に立っているんだと気が付きました。中途半端なことをやっている場合じゃない、覚悟を決めようと腹が据わりました」
生き残った自分にできることは何かと模索する中で生まれたのが「イカ王子」だった。
「若い自分が“人寄せパンダ”になれば、宮古の水産業への注目を集められる」。
そう考えて「三陸王国 イカ王子」を名乗り、開設したばかりの自社サイトにブログの投稿を始めた。2011年夏、30歳のときだった。
折しも、実質的に経営を担ってきた叔父が病気で亡くなり、鈴木さんがその跡を継いだ。Uターンして8年目。改めて財務諸表を点検し、自社の経営体制を直視すると、経営状態は思っていた以上に厳しかった。
三陸の水産加工業は震災以前からいくつもの課題を内包していた。
水産資源の減少により原料価格は少しずつ上昇する一方で、サプライチェーンが複雑で産地に利益が残りにくく、価格決定権を持ちづらい流通構造があった。
地域の高齢化による人手不足も収益改善の足かせとなっていた。共和水産もまた例外ではなかった。
「イカ王子」で一躍脚光を浴びた
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