崖っぷち「イカ王子」民事再生後も目指す再起 窮地が続く東北被災地の水産業を伝え続ける
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 11時0分
経営改善に向けて、父の代から取引のあった生協の共同購入向けのイカそうめんに特化する方針を決めた。
それまでは50gのパック入りだった商品を1食ずつのカップ入りに変更し、朝食のおかずという新たなマーケットを開拓。3億円だった売り上げを11億まで増やした。
「イカ王子」という奇抜なキャラクターによる発信の効果と「被災地を応援したい」というニーズがかみ合い、大手通販サイトと連携して開発した新商品は、サイト上位に食い込む人気となった。
流通構造の問題や人手不足といった水産業の課題に向き合う中で、市内の同業者と協業した商品開発や販路の拡大も進め、商品を携えて、台湾やニューヨークの商談会へ。
イカ王子のトレードマークの王冠をかぶりマンハッタンの試食会に立つ姿はテレビ局の密着取材を受け、報道された。無事に輸出も決まり、宮古産・海産物の販路を海外に切り拓く道を作った。
震災後、故郷への思いを新たにした鈴木さんの次の一手は、宮古港が全国有数の水揚げ量を誇るマダラの活用。
宮古では鮮度の良いマダラを刺身で食べる習慣はあるものの、料理のレパートリーが少なく、加工品もない。若い世代にはとくになじみのない魚だった。
「イカやサケ、サンマという三陸の魚の不漁が続く中で、安定的に水揚げされるマダラで美味しいものを作って宮古を盛り上げたい」と新商品の開発に向けて動き出した。
そこで生まれた「王子のぜいたく至福のタラフライ」は目論見通りのヒット商品に。
マダラをPRするための「真鱈まつり」や宮古市内の水産加工品を扱うECサイトなどで先頭に立ち、「地域の顔」としてイカ王子を前面に押し出した企画を続けた。
結果、王冠をかぶり三陸の海やイカについて情熱的に語る“王子”のキャラクターが話題を呼び、地元メディアだけでなく、スポーツ紙などさまざまな媒体で水産業復興のシンボルとして取り上げられた。
農水省や総務省、復興庁などで被災地の「先進事例」として紹介されたこともある。
海の異変
だが、表舞台での活動の一方、海の異変は少しずつ深刻さを増し、会社の経営も厳しくなっていった。
中でも震災の前年には全国で19万9800トンの漁獲量があったスルメイカは、2016年には10万トンを割り込み、2022年には3万トン台まで激減。宮古港を含む岩手県内での水揚げ量も、最盛期の2000年ごろと比べると、7分の1以下の2590トンに落ち込んだ。
「1kg400円だった仕入れ値が3倍以上に膨らみました。1商品当たりの量を減らして、実質的に値上げするなど価格転嫁を図ってきましたが、年々赤字が膨らみどうにもならない状態に陥ってしまいました」
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