「アンチヒーロー」ヒットを予感させる3つの要因 随所に注目ポイントが散らばっている
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 17時0分
とりわけ、緋山の検察側の証人に立った聴覚障害のある尾形(一ノ瀬ワタル)に対して、彼を騙して利用したようで、代わりに彼の訴訟をただで受けていいと申し出るところなどは、単なるダークな人物ではなさそうだ。
今期、朝ドラこと連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)のヒロイン(伊藤沙莉)は法学を学び、のちに弁護士、そして裁判官になる。ヒロインは清廉潔白だが、訴訟の解決にみだらな見返りを求めるような悪徳弁護士も登場した。
もう一作、ラブ&ミステリーをうたった『Destiny』(テレビ朝日)のヒロイン(石原さとみ)は検事で、彼女の前に立ちふさがる敏腕弁護士(仲村トオル)は金や権威のある者を無罪にしていくダークな弁護士である。『虎に翼』にも訴訟が解決してくれるが見返りを求めるような悪徳弁護士が登場した。
一般的に、弁護士は守る人、検事は責める人、みたいな印象を抱きがちだが、決してそういうわけではなく、それぞれ訴訟に勝つのが仕事であって、そのためにはどんな手段もいとわないものとして描くドラマが近年は増えている。
リーガルものは法律という、この国に生きとし生けるもの誰もに関心がある題材である。ルールが明文化されるだけあって、誰もが理解できるし、法律の知識を得ることもできる。
緋山は現代のラスコリニコフなのか
『アンチヒーロー』でも明墨は、尾形を存在しない法律を使って騙した後、「ものごとを知らないとはおそろしいね」と言っている。法を知り学び、法をどう解釈するか自分なりに考えることで、よりよい生き方が見つかる可能性がある。また、現行の法がほんとうにそれでいいのか考えることの重要性を知る者こそが生き残ることができる。明墨はそれを体言している。
冒頭の明墨の信条から考えると、やむをえない事情で殺人を犯したことによって自分自身も関係者も不幸になってしまった人物がいるのではないか。例えば、ドストエフスキーの『罪と罰』のように、自身にとっては正当な理由のもとに、金持ちで強欲な老婆を殺害した苦学生ラスコリニコフのような人物がいるのかもしれない。
緋山は、町工場の労働者で、社長のハラスメントに耐えかねて殺害に及んだとされている。緋山は現代のラスコリニコフなのだろうか。
緋山が本当に無実であれば、明墨はやりすぎなところはあるものの、実に頭のキレる、名弁護士ということになる。が、緋山が実際殺していたとしたら、殺人犯を無罪として世に放つことになり、ちょっとこわい。
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