グローバル化が進むと「封建的な世界」になる理由 ナショナリズムこそリベラルな社会の前提条件
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 9時30分
次に『Economist』の記事。ここには国民保守主義の問題点に対する重要な指摘が見られます。つまりこの理念は、グローバリズムや新自由主義に対する被害者意識に基づいた「怨み節の政治」を志向するものだと書いてあるのです。
ところが人間、被害者意識にとらわれたら最後、自分が悪いとは絶対に思えなくなる。物事がうまくいかなくても「あいつのせいだ、こいつのせいだ」とヒステリーを起こすばかりで、おのれを省みたり、行動を改めたりはしないのです。つまりこれが正しければ、国民保守主義など自滅を運命づけられた独善にすぎない。
佐藤:おまけに『Economist』、国民保守主義は「政治的多元主義を嫌う」とも述べている。くだんの姿勢はほぼ確実に、国民の分断を引き起こしたあげく、権威主義の賛美に行き着きます。その危険性を説くかぎりにおいて、この記事は自由民主主義をきちんと理解している。自滅的な権威主義賛美を容認するようでは、反グローバリズムの行く末も知れたもの、そう言われても仕方ないでしょう。
グローバル化への移行を促す圧力
佐藤:ならばなぜ、国際化、ないし国際主義と、グローバリズムはかくも混同されるのか。抽象的な観念としてはともかく、現実には線引きが難しいことが第一に挙げられます。国境の垣根をどこまで保ったら国際主義で、どこまで下げたらグローバリズムなのか。しかも積極的な交流が望ましいのなら、垣根は低いほうがいいに決まっている。
「国際化が望ましいのなら、グローバル化はもっと望ましいはずだ」という形で、グローバル化への移行を促す圧力があるのです。もともと近代世界は「理性に基づく普遍性」を志向する性格が強い。そして「理にかなった変化なら、どんどん進めるに越したことはない」という加速主義の傾向まで持っています。
加えて問われるべきは、はたして国際主義で国際秩序を維持できるのか。実際、世界は20世紀前半に一度失敗しています。第1次大戦後に国際協調主義が提唱されたものの、国際連盟は第2次大戦を防げなかったのです。だからこそ、今度は国際連合だ、望むらくは世界政府だという話になった。グローバリズムなしには第3次大戦で人類が滅びかねない、20世紀後半の世界がこの危機感から出発したことを忘れるべきではありません。
普遍性の追求、加速主義の肯定、そして安定した国際秩序への志向。この3つがそろったら、グローバリズムが国際主義を圧倒して当然なんですよ。裏を返せば、グローバル化に歯止めをかけてナショナリズムの方向へと引き戻すには、「普遍性を追求しない自由」や「物事を加速させない自由」が必要になる。もっと言えば「偏狭になる自由」や「基盤を共有しない自由」。
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