「なぜ人類は絶滅しない?」哲学者が出した"答え" 「進化したサピエンス」がなぜ生きづらいのか?
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 13時30分
さまざまなストレスを抱え、生きづらさを感じるわたしたち。その根本には、テクノロジーが発達した現代社会と、わたしたちの脳と身体、精神との間のミスマッチがあります。
いま、「ケア」に注目が集まるのはなぜか?
教育者、哲学研究者である近内悠太氏が「ケアや利他の概念」を哲学的に掘り下げた新刊『利他・ケア・傷の倫理学』より、内容を一部抜粋して紹介します。
進化したサピエンスが、なぜ生きづらいのか?
なぜ僕らはこれほどまでに生きづらいのだろうか?
ひとは日々、人間関係に悩み、自身の健康を気に病み、将来に対する漠然とした不安を抱え、過去の恋愛や性に関する傷を抱えています。
「猫になりたい」とか「鳥になりたい」と思ったことはないでしょうか?
ふと、すやすや眠る猫を見たりすると、「猫になりたい」と思ったりするのは、猫が僕らの持っているような人間的な悩みや不安と無縁に見えるからでしょう。
ここに謎があります。
なぜ、人類はこれほどまでに生存に関する問題を抱えているのでしょうか?
あらゆる生物は環境に「適応」し、進化してきたといいます。
現代を生きる僕らは、かつての過酷な環境においても淘汰されず、生き延びてきたサピエンスたちの末裔のはずです。
猫よりも高等で社会的な能力を持つはずのサピエンス。にもかかわらず、なぜ僕らは悩みと不安を携えながら生きてゆかなければならないのか。
簡単に言えば、なぜ僕らは猫になれないのか?
なぜ進化のプロセスを経てなお、僕らは猫のような安寧の獲得に失敗し続けているのか?
現代社会というシステムに不適応な僕ら
僕らサピエンスという種はこの環境に適応していないように見える。精神と社会とのミスマッチがあるように思えます。
もし、この身体、脳が現代社会というシステムに適応的であったとしたら、たとえば僕らはわざわざGoogle カレンダーに予定を書き込んだりする必要などないはずです。
僕らはしばしば、忘れてはいけない予定を忘れてしまう。それが重大な仕事の予定であったり、大切であるはずの家族との予定であったりしたら、文字通り死活問題となります。社会的な生存を危うくする失策です(少なくとも肩身が狭くなるはずです)。
死活問題であるにもかかわらず僕らの脳は、そんな予定を意識の外におき、僕らに予定をすっぽかさせる。ということは、現代社会の生活様式は脳のデフォルトの記憶容量を上回っていることになります。
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