「なぜ人類は絶滅しない?」哲学者が出した"答え" 「進化したサピエンス」がなぜ生きづらいのか?
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 13時30分
そして、ハンセンは今度はカーリンとマリアの2人を現代社会に登場させる。
カーリンはマクドナルドでハンバーガー1個を食べ、それで満足し、店を出ていく。それに対し、マリアはハンバーガーだけでなく、サイドメニューも飲み物もデザートも全て注文し、それを平らげてからようやく店を後にする。
次の日も、ドーパミンに導かれて、同じ店にやってきたマリアは、前日と同じように大量の食料を摂取することになる。
数カ月経つと、暴食がマリアの身体を蝕み始める。余分な体重が何キロも増えただけでなく、2型糖尿病も発症した。彼女の身体は著しく高い血糖値に耐えられなくなっている。これでカーリンとマリアは立場が逆になった。サバンナでは生き延びるのを助けてくれたカロリー欲求だが、現代社会には適していない。人類の歴史の99.9%の期間、私たちの生存を維持してきた生物的なメカニズムが、突如として益よりも害を引き起こすようになったのだ。
(同書、30頁)
さて、ここで鍵になるのは「進化的適応環境 environment of evolutionary adaptation, EEA」という概念です。
EEAとは、われわれヒト固有の適応が進化した舞台であった環境のことです。先の例で言えば、カーリンとマリアが元々いた10万年前のサバンナなどの環境のことです。
進化生物学、進化心理学において、論者や文献によって揺れはありますが、サピエンスのEEAは具体的には数百万年前~数万年前までの環境を指します。少なく見積もっても、1万年前までの環境がEEAと呼ばれる環境です。
身体も精神も、現代の社会環境に適応していない
おわかりでしょうか。
僕らの身体も精神も、現代の社会環境に適応していないのです。
僕らの身体と精神は、いまだに数万年前の環境にフィットしたまま今日に至っている。
ミスマッチ──。
進化の歴史の中で獲得した身体的特徴および心的特徴と、現代社会という環境のミスマッチが起こっているのです。その1つの事例が、先のマリアが置かれた状態でした。
何を「美味しいと感じる」のかも、何を「いい匂いと感じる」のかも、かつてのサバンナではそのような遺伝的性質を持った個体の方が生き延びやすかったがゆえに(そして生存の結果、遺伝子を次世代に繋ぐことに成功したがゆえに)、獲得されてきたのです。
飢餓が身近であった数万年前までの環境では、糖質と塩分と脂質に対する強い嗜好が適応的だったわけです。
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