娘が流すSnow Manに私が「日本の未来」感じた訳 私たちが必要としている「弱者」の再定義とは?
東洋経済オンライン / 2024年4月28日 13時10分
メディアやネットでは一斉に批判の声があがった。人権団体からも市に激しい抗議の声が寄せられた。ネット上では「福祉不毛地帯」の文言が躍った。
そんな折も折、当時の市長は、小田原市民の私に、事実解明の検討会議の座長就任を依頼してきた。批判の矢面に立つのは誰だって嫌だ。だがこれも市民の務め、と観念した私は、依頼をお引き受けすることにした。
なかなか物事を決められないことを「小田原評定」という。だが、いま振り返ってみると、小田原市の対応はじつに素早かった。
市は、批判の急先鋒である人権団体のメンバーや生活保護の元利用者を会議に招いた。また、委員の求める必要な情報を文字通りすべて開示した。
報告書の提言も着実に実施され、批判の急先鋒だったはずの人権団体、生活保護問題対策全国会議が小田原市を表彰するという、前代未聞の「事件」まで起きた。
職員を応援する声が45%に達していた
こうして、「福祉不毛地帯」と酷評された小田原市は、「絶望から生まれつつある希望」と評されることになったのだが、検討会議では個人的にショッキングな出来事があった。
事件が報道され、多くの声が市に寄せられたといったが、私は、当然、職員への苦情、叱責の一色だろう、と思っていた。
だが、市の職員さんに集計結果を聞いてみると、職員の行動を批判する声が全体の55%、よくやった、もっと不正をきびしく取り締まれ、という応援の声がなんと45%に達していた。
生活保護の不正利用を金額で見てみると全体の0.3〜0.4%だ。生活保護利用者は、理由があって働きたくても働けない人たち。気の毒な人ではあっても、悪い人たちではない。そんな私の正義、メディアや人権団体の正義は、社会の正義とズレていたのだ。ショックだった。
報告書を市長に手渡して数カ月たったある日のこと。私は友人と一緒に夕食を取っていた。となりの席に座っていたのは、若い研修医のグループだった。
彼らは小田原のジャンパー事件を引き合いにしながらこう言った。ちなみに、オプジーボとは非常に高価ながん治療薬のことである。
「小田原の話、知ってる?」
「知ってる。いつも生保のくせにオプジーボ使うなって思うんだよね」
「税金払ってないもんな。生保は生保並みの治療で我慢しろよな」
助けられているのだから、高度な医療くらい遠慮しろ、と彼らはいう。命に軽重があるのか? これが日本の医療を支える若者の声なのか? 私は怒りで震えそうになった。
「既得権のない弱者」の「既得権を持つ弱者」への怒り
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