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娘が流すSnow Manに私が「日本の未来」感じた訳 私たちが必要としている「弱者」の再定義とは?

東洋経済オンライン / 2024年4月28日 13時10分

だが、ふと気づく。この若者たちの声と、小田原市に寄せられた声はそっくりではないか。双方に共通するのは、弱者へのねたみと憎悪。いや、もっと正確にいうならば、「既得権のない弱者」の「既得権を持つ弱者」への怒りではないか。

朝から晩まで働き、爪に火を点すような暮らしをしている人がいる。世帯収入のピークは1990年代後半。結婚や出産、持ち家をあきらめた人も多い。彼らの目には、働かずに収入をもらえる生保利用者は、「特権的弱者」に見えているのかもしれない。

医者と聞くと富裕層をイメージする。だが、研修医の年収は平均400万円強というデータもある。夜間勤務や長時間労働に苦しみ、過労死すら起きている。そんな彼らもまた、「既得権のない弱者」だったのではないか。

「国際社会意識調査」を見てみよう。 以下の質問を「政府の責任」と考えない回答者の割合の多さを知ることができる。まるで、私たちは、「弱者」を「既得権者」と認識し始めているようだ。

「病人が病院に行けるようにすること」1位/35カ国

「高齢者の生活を支援すること」1位/35カ国

「失業者の暮らしを維持すること」2位/34カ国

「所得格差を是正すること」6位/35カ国

「貧困世帯の大学生への支援」1位/35カ国

「家を持てない人にそれなりの家を与えること」1位/35カ国

「弱者」の救済は道徳的には正しい。市職員の行為を支持した人たちも、研修医たちも、まちがっている。だが、「弱者へのやさしさ」を当然視するリベラルは、長年、苦戦を強いられてきた。正しさが民意と同じであるとは限らない。

哲学者ニーチェは、「強者」に対するねたみ、憎悪を「ルサンチマン」と呼んだ。生活苦や仕事のきびしさに耐えている大勢の人たちが、さらなる弱者の既得権を監視し、ねたみ、批判する。まるで「ゆがんだルサンチマン」だ。

「弱者」とは決して弱い人たちではない。やむをえない理由で、弱い立場に置かれた人たちだ。それなのに、弱者が、さらなる弱者を叩く。この様子をTRAIN-TRAINの作詞家である真島昌利さんは、どんな気持ちで見ているのだろう。

悲観する私、肯定的未来を思う娘

「世界価値観調査」によると、「国民みなが安心して暮らせるよう国は責任を持つべき」という質問に8割近い回答者が賛成している。私たちは貧しくなった。「誰か」ではなく「みんな」の不安をなくすための政策、「弱者」の<再定義>がいま必要なのだ。

この歌は悲しい予言の曲なんだよ――そう言って、私は、娘にTRAIN-TRAINを聞かせた。あまり実感がわかない様子だった。だが、聞き終わると、彼女はおもむろにYouTubeをひらき、Snow Manの曲を流し始めた。

心が荒んでしまって

誰も信じられなくなって

強く当たってしまっても

待っててくれたんだ

もしこの先君が

困る時があったら

今度は僕が君のこと

支えてあげるから

出所:「ベストフレンド」(作詞:SHOW)

もしかするとこの歌が日本の未来になるかもしれないね、と娘はつぶやいた。私の頭には、支え合い、頼り合う人びとの姿が浮かんだ。心が温かくなった。

否定的な現状。悲観する私。いまを生き、肯定的未来を思う娘。どちらが正しいのかは誰にもわからない。でも、そんな<やさしい社会>を想像するのも悪くない。今日は、家族と語り合ってみよう。Snow Manを聴きながら。

井手 英策:慶應義塾大学経済学部教授

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