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認知症の親を看取った2人の「後悔と幸せな最期」 稲垣えみ子×中村在宅医の「老いを生きる戦略」

東洋経済オンライン / 2024年4月29日 12時5分

マジックで大きく「捨てるな!」って

稲垣:母は亡くなる前に認知症になったんですけど、症状が進むにつれて着たい服を選ぶことができなくなって、いっぱい持っていた洋服の海の中で途方に暮れている姿をみることが増えてきたんですね。

で、これはいけないと思って、「お母さん、着ない服を整理したら? 私も手伝うから」と、2人で話し合いながら服を処分したんです。でも今から考えれば、絶対にやってはいけなかったことだった。

中村:どうしてでしょうか?

稲垣:母が亡くなって遺品を整理していたら、マジックで大きく「捨てるな!」と書いてあるビニール袋が出てきて。

中村:あ……。

稲垣:いつ書いたのかも、私が捨てたことと関係しているのかもわかりませんが、自分の大事なものが「捨てられてしまう」という恐怖が母にはあったんだなと思いました。私は母のために、母の納得を得たうえで処分したというつもりだったけれど、病気で弱くなっていた母には娘の提案を断ることなんてできなかったと思う。

「いいこと」の押し付けって、本当に暴力になるんだって思いました。だから今、父にはなるべく何も言わないようにしています。父には父の価値観があり、80年以上もの歴史がある。どう生きたいかは本人が決めることなのだと。

中村:親には親の価値観があるように、患者さんにも患者さんの価値観がある。

稲垣:そう思います。中村先生が医師として、目の前にいる患者さんに何かチップスを与えたいというお気持ちはすごくわかります。ただ、いくら自分で体感した幸せでも、それがその人にとっての幸せなのかわからないと思うんです。

中村:さまざまな患者さんの最期に立ち会ってきたからこそ、ちょっとした視点の変化で、よりいい時間になるかもしれない!と思ってしまうのですが、その人にはその人の歴史があるから、立ち入れられないところもありますよね。そういう意味では、私がしようとしていたことって、おせっかいですね。

おせっかいって悪いことじゃない

稲垣:でも、おせっかいって悪いことじゃないです。他人に関わることって素晴らしいと思うんですよ。今、家に何もない暮らしをしているので、近所の小さな小売店や銭湯に通っていると自然にお年寄りの友達が増えて、いろんな話を「うんうん」とうなずいて聞いているんですけど、だいたい同じ話です(笑)。これが親だったらイライラするんだけど。

中村:わかります!

稲垣:で、そんな大したことをしてるわけじゃないんですけど、お年寄りって、話をウンウンと聞いてくれる人がいるだけで喜んでくれるんですよね。だから私、これも1つの親孝行だと思っているんですね。親の話はちゃんと聞けなくても、他人の親の話はちゃんと聞ける。そうやって親孝行をみんなで回していったらいいんじゃないかって。

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