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「成果を出せない上司」は発酵を学ぶといい理由 答えのない不確実な時代のチームマネジメント

東洋経済オンライン / 2024年4月29日 11時0分

私も、この思いに共感します。私も代々「麹菌の声を聴け」と言われてきました。

麹菌は暑いとも寒いとも声を出して言わない。しかし、麹菌をよく観察すること、時には実際に触ってみる作業を通じて、麹菌が暑いと思っていないか、あるいは、寒いと思っていないか、ジメジメしすぎだと思っていないか、乾燥しすぎだと思っていないか、そんな声なき声に耳を傾けながら、麹室と呼ばれる、麹がある部屋の温度と湿度をコントロールして環境を整えてあげる。これが、人間が「発酵」においてできることです。後は「これだけ環境を整えたのだから」と、微生物たちを信じてその活動に任せるしかありません。

人間に発酵食品はつくれないのです。

組織マネジメントにも通じる考え方

さて、私はこの「環境を整える」という感覚は、組織マネジメントにも通じると考えています。リーダーである自分にできないことを、プレイヤーたちにやってもらう、その成果を信じて待つ、という感覚は、発酵食品づくりで養える感覚だと思います。

麹菌や酵母、乳酸菌などの微生物たちは、「自分たちが味噌をつくろう」と思って活動しているわけではありません。それぞれの微生物たちは、自分たちが勝手に活動していて、その「勝手な活動の結果の集合」として生まれたものが、結果として人間にとっては発酵食品になっているわけです。

麹菌が自分たちの活動の結果、体外に出した酵素や、酵母が生産したアルコール、乳酸菌が体外に排出した乳酸などの各種の物質を、人間が勝手に利用しているわけです。

麹菌、酵母、乳酸菌など複数の微生物が、それぞれは勝手気ままに活動しているのだけれど、その活動の組み合わせが、実は、自然と環境のコントロールになっていたり、それぞれに栄養を補給する関係になっていたりと、まるで、チームワークがそこにあらかじめ存在していたかのような動きをします。これが、日本の発酵食品づくりの魅力です。

この動きは、チームマネジメントとしても大いに学ぶところがあります。

あくまで個々の構成員は自分のために動くのですが、それを足し合わせることによって、チームにとって望ましい結果が自然と生まれる、というのは、多様性の時代に相応しいマネジメント方法ではないでしょうか。

そう、言うなれば、命令で動かすのではなく、環境を整えて動いてもらうマネジメントスタイルです。

個々のメンバーに対して、上意下達で「この目的のために、あれをしなさい、これをしなさい」と直接命令をして、それが組織の隅々まで伝令し、成果に向けて組織を動かしていくマネジメントがあるとしたら、発酵のマネジメントは、「個人個人の自由な行動を、調和・統合することによって、チームの成果につなげる」タイプのマネジメントと言えます。

「自分にできないことを信じて任せる」

VUCAと呼ばれる答えのない不確実な時代の中で、それぞれに個性のある多様な個人の集団を率いなければいけない現代のリーダーは、自分が精通していない分野、自分ができない分野の人材も活躍させなければいけません。ひとりの人間がすべての分野に精通することは無理です。すなわち、「名プレイヤー=名監督」という図式は成り立ちません。自分にできないことは、誰かに任せるしかありません。

組織の中で何でも自分たちで解決するのではなく、組織の外の力も借りて任せて成果を生み出していく時代において、まず、マネジメントの第一歩目、「自分にできないことを信じて任せる」という感覚を身につけるのは、できあがりを微生物に任せるしかない、発酵食品からも養える感覚です。

村井 裕一郎:糀屋三左衛門 ・第29代当主

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