国策ラピダスとTSMC"2つの戦略"で決定的な差 早大・長内教授「ビジネスにストーリーがない」
東洋経済オンライン / 2024年4月30日 8時20分
TSMC創業者のモリス・チャンは、台湾当局のプロジェクトで新規開発案件を進めるとき、エンジニアにビジネスマインドを持たせるために「フィフティ・フィフティ」の制度を導入した。開発費の50%は税金から出す、残り50%はエンジニアが自分で民間からの投資を募ってこいと。
そうすることで、ビジネス的にありえないストーリーでは出資が得られず研究が前に進まない。結果的にエンジニアがビジネスマインドを高めていくしかなかった。
そういうさまざまな施策があって今のTSMCがある。技術習得からビジネスまで、エンジニアが全体を見られる状態を作ったことが大きかった。
日本のエンジニアが単に技術領域でがんばっても、TSMCには絶対になれない。TSMCより規模の小さいファウンドリーを目指して、この業界で本当に生き残れるのかは怪しい。
——ラピダスは差別化戦略として、新しい製造方法を導入することで製造期間を大幅に短縮することを掲げています。
戦略の可能性が狭すぎる。スピード戦略を掲げて、達成できなかったときにどうするのか。プランBがない。そうとうな額の公費を長い間つぎ込んだ末にプランBがないというのは、許される状況ではない。
もちろんラピダスが追い詰められた結果、そこでブレイクスルーを生み出す可能性はゼロじゃない。もしかしたらTSMCをはじめ大手企業は、規模が大きいのでラピダスのような効率化を図らなくてもよかっただけなのかもしれない。でもラピダスが実現できたら、競合も同じことをやり始めるだろう。そのとき、ラピダスの優位性は何になるのか。
装置・材料メーカーはラピダスが最優先ではない
——量産に欠かせない装置や材料メーカーとの連携にも、疑問を呈しています。
国が前のめりだからこそ、 各社の思惑が読みにくくなっている。出資会社も含めて前向きな意思表示をせざるを得なくなっている。装置や材料など関連メーカーにとって、何社かある顧客の1つとして一定のリップサービスは必要かもしれない。でも海外の大手メーカーよりも最優先でラピダスに協力するわけではないだろう。
だから、とにかく半導体生産では数を追うことが重要。生産数が増えれば、それだけ装置や材料メーカーにとって重要顧客になる。
——とはいえ、これまでに1兆円近くの公費が投入されています。これからラピダスが目指すべき方向とは。
量産を目指すのなら、なぜ量産ノウハウを持っている会社と提携しないのかが不思議だ。現状では研究機関のimecやIBMと協力しているのみ。ラピダスの小池淳義社長は日立製作所時代、台湾大手ファウンドリーであるUMCと合弁を組んだ経験もある。なぜ今回はそういう経験のあるファウンドリーを巻き込んでいないのか。
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