度肝を抜かれた「小学校の怪授業」から得た教訓 なぜ人は文章を書くのか、なぜうまく書けないか
東洋経済オンライン / 2024年5月1日 15時0分
さて、このように担任が怖いから野良犬イベントに熱狂しなかったわけではない。やはりこのイベントは別格なので担任が怖かろうが怒られようが盛り上がるものだった。ただ、そのときだけは違った。明らかに教室の雰囲気がおかしかったのだ。
時間割によると、その時間は算数の時間だった。ウロコのようなジャージを身に纏った恐怖の担任もデカい三角定規を持ってきていたので、やはり算数の時間だったと思う。けれども、担任は平然と国語の教科書を朗読し始めたのだ。
僕らは狼狽した。やばい俺たちが間違えたんだと国語の教科書を出そうとしたけれども、そもそも、今日は国語の時間が設定されていなかった。だから誰も国語の教科書を準備できなかった。すべての教科書を置いて帰っているワンパクグループの男子だけが満面の笑みで教科書を取り出していた。
狼狽する多くの児童を他所に、担任教師の朗読が続く。時には黒板にオオサンショウウオのイラストを描いて理解を促すなど熱のこもった授業だった。ただ、やはりなんど時間割表を見てもこの時間は算数の時間なのだ。
児童たちは少しだけざわついたけれども、すぐに静かになっていた。先生が間違えるはずがないので、おそらく僕らが時間割変更を聞き漏らしていたのだろう、そんな雰囲気が蔓延していた。
そうなると事態はロシアンルーレットの様相を呈してくる。普段は先生がしばらく朗読を続け、区切りがつくと、誰かが指名され続きを読むように言われるのだ。そこで「教科書を忘れました」となると鉄拳制裁となるわけだ。そしていまはほとんどの児童が教科書を持たない状態なので、指名される=死なのである。
いつ指名が飛んでくるか、だれがその餌食になるのか、明らかに教室の空気が張り詰めていた。明らかに僕らはいま大きな危機に直面している。野良犬がグラウンドに入ってきた程度で盛り上がれる他のクラスの連中があまりに平和ボケしているように思えたし、幼稚に感じた。
段落が切れるたびに緊張が走る。多くの場合、今日は10日か、じゃあ10番、と当てられる。ということは10番のヤツが桁違いに危ない。出席番号10番ってだれだっけと思ったら僕だった。明らかにいまこの教室でもっとも死に近いのが僕だった。
しかしながら、そういった予想に反して担任は朗読をやめなかった。延々と朗読を続けていて、それもまた怖かった。算数だと思ったら国語だった。終わらない朗読。なんだかいつもと違う恐ろしさみたいなものがあった。
先生が狂った?
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