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王子HD、「薬用植物の王様」に注力する切実な事情 甘草の大規模栽培で「脱・製紙企業」目指す

東洋経済オンライン / 2024年5月4日 9時0分

だが生薬の多くが中国産で、日本産の比率は小さい。生薬全体では8割が中国産で、甘草についてはほぼ100%を中国産に依存している。日漢協によると、日本産の甘草が使用されたのは2019年度の68キロ、2020年度の122キロとごく少量で、それ以前に日本産が活用された調査結果はないという。

甘草は中国を中心に、パキスタンやアフガニスタンなど中央アジアで自生している野生種が広く使われている。ただ甘草の需要増加に伴う資源枯渇や、中国による輸出規制など政治的な要因で、国内で安定的に入手できる体制が求められていた。

王子HDが甘草栽培に踏み切った背景には、こうした見通しに加えて、国内外に民間企業として最大の約60万ヘクタールもの社有林を持ち、優良品種の選抜や育種など、製紙会社として長年にわたり蓄積された技術やノウハウを、甘草栽培にも十分に生かせるのではないかという算段もあった。

ただ、経験のない甘草栽培はそう簡単ではなかった

「苗の作り方から植え方、収穫の時期、肥料の選定など、何から何まで手探りでした」――。

王子薬用植物研究所の事業本部生産部長の佐藤茂氏は、同研究所がある北海道上川郡下川町や名寄市の農場で、2人の研究員とともに甘草栽培に取り組み始めた当時を振り返ってこう語る。

多年生植物である甘草は、種を播いてから収穫するまでに通常は5~6年かかる。毎年毎年課題をクリアして育てていかないと収穫にはたどり着けない。栽培当初は、種を播いて苗になる割合である「得苗率」が3割ほどだったり、雑草に悩まされたりするなど、苦労の連続だったという。

それでも植林事業で培った苗木育成のノウハウをもとに改良を加えたり、肥料の栄養素やあげ方を工夫するなど試行錯誤を繰り返し、得苗率を9割以上に高めることに成功したという。

「得苗率が大幅に向上したことで、2017年から大規模栽培に踏み込むメドが立ちました」(佐藤氏)

2016年11月に王子HDは、「薬用植物『甘草』の国内短期栽培技術確立のお知らせ」というニュースリリースを発出している。そこには、通常は5~6年かかる栽培期間を約2年に短縮する技術を確立したことや、日本薬局方で定められた甘草の有効成分基準である「グリチルリチン酸含量2%以上」を達成できたことが盛り込まれている。

こうして同社は、試験栽培を終え、栽培面積を拡張することで大規模栽培技術の確立にステップアップする。その結果、2021年以降は年間トン単位での甘草の収穫に成功している。

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