「ハチロク」大正から令和まで活躍したSLの記憶 花輪線や五能線での現役時代、「SL人吉」の勇姿
東洋経済オンライン / 2024年5月4日 6時30分
五能線でのハチロク遭難
筆者はこの五能線で壮絶な体験をしている。それは1972年12月2日の早朝のことだった。前日から日本海に発達した低気圧が接近して、深浦港近くの宿では潮騒が窓を打ち鳴らす音でまんじりともせずに夜明けを迎えた。
目が覚めたときは午前6時を回っていた。ハチロクが牽く5時55分発の始発1725列車に乗るはずだったが寝過ごしたのだ。次のディーゼル列車で行くことにして深浦駅に向かったところ駅が騒々しい。定時に出た1725列車が有人駅の追良瀬駅に到着していないという。
そして悲報が届いた。1725列車は広戸駅付近で波にさらわれて脱線転覆したというのだ。正確には大波で路盤が洗われて線路が宙に浮いたところへ列車が突っ込み、そのまま海中に没した、というのだ。
もし、この1725列車に乗っていたら、SLマニアの性で機関車のすぐ近くの最前列に陣取っていたであろう……と想像しただけで身体が震えた。1時間ほどしてから保線の車に同乗して現場に向かうと、機関車は横転して海中に没し、客車の最前部の半分以上が海の中で大波に洗われていた。機関士は行方不明だという。もし私が乗っていれば行方不明は2人ということになっただろう。
少し落ち着いた頃に私は現場を撮影し、後で到着した仕事先の某大手新聞社の支局員にフィルムを手渡した。残念なことに機関士は後日、機関車の下から遺体で収容されたという。
北九州の炭鉱地帯を走ったハチロク
北九州の炭鉱地区では、石炭列車は9600形が牽いていたが、通勤通学列車はハチロクが客車を牽いていた。室木線と香月線(ともに福岡県・廃線)ではハチロクが2両の客車を牽き通勤通学列車に使われていた。
映画俳優の高倉健さんが亡くなった時、健さんが疎開先の室木線鞍手駅で終戦の「玉音放送」を聞いたと「私の八月十五日の会」の録音で述べている。健さんは当時も鞍手駅から折尾の高校へ通学したり勤労奉仕に出かけたりしていたというから、ハチロクが牽く室木線の旅客列車に乗っていただろうか?
改めて当時の室木駅でのハチロクの旅客列車の写真を見ると、戦中に健さんが乗ったと思われる列車そのもののような気がして感慨を新たにした。
最後まで活躍したハチロクは、2024年3月に引退した「SL人吉」の58654号機だ。
この機関車は大正時代の1922年に製造され、1975年に引退して肥薩線矢岳駅前の人吉市SL展示館で静態保存されていたのを、JR九州が発足直後の1988年に動態復元した。それ以来30年以上、観光列車の牽引に活躍してきた。当初は豊肥本線・熊本―宮地間運行の快速「SLあそBOY」として営業運転を開始し、年間数日程度、熊本―人吉間の「SL人吉号」としても運行された。
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