「親が宿題を代行」を先生が怒らなかった納得理由 教育現場は「正論」しか選択してはいけないのか
東洋経済オンライン / 2024年5月5日 12時0分
教育者の端くれとして思う。私たちは、教員の公平な態度を考えるとき、親=子=先生の距離感を型にはめて考えがちだ。あるべき距離感、杓子定規な態度を<常識>とみなす。
例えば、バイオリンを習えない貧しい家庭の子がいる。その子と平等にあつかうために、バイオリンを習っているお金持ちの子は特別扱いしない。きちんと自分で宿題をやってくる子がいる。だから親が代わりに宿題をやった子を叱る。
まったくの正論だ。だが、学校の先生は、この<正論>しか選択してはいけないのだろうか。もしそうなら、公平さの名のもとに、禁止事項が増える一方ではないだろうか。
必死に頑張っている、豊かな家庭の子どもを励ましに発表会を見にいく。貧しい家庭の親御さんの苦労を察し、みんなで胴上げをする。お金持ちも、貧しさも関係ない。そんな理由で線を引く必要はない。
時にはある人が、別のときには別の人が、それぞれの頑張りに応じて特別扱いされる。大事なものを大事にする。そんな公平さ、いや、やさしさもあってもいいのではないだろうか。
教育の現場はリベラルになった。昔よりもずっと子どもの権利は保障されている。私はすばらしい変化だと思っている。だが同時に、親も先生も、不寛容で、融通が利かなくなった。
親たちは、<自分の子どもの受益>を<他の子どもの受益>と比較する。モンスターペアレンツを持ちだすまでもなく、教育者への尊敬の気持ちも薄れつつある。
仕事が忙しすぎる先生たちは、子どもや親との適切な距離を探る余裕をなくし、親からの批判を恐れて、定型化された行動を無自覚に受け入れている。
教育をよくするのは専門家ではない
昔の日本では、先生がたも、友人の親御さんも、みんなが私たち<子ども>のことを考えてくれていた。いや、子どもだけではなく、母もまた、社会や地域に支えられ、育てられていた。母はそんなみなさんに恩返ししようと必死だった。
『星の王子さま』は火事で燃え、小学校の恩師は鬼籍にいられた。だが、私の心に刻まれたこの温もりは、形はちがっても、子どもたちの心に受け継がれてほしい。
もちろん過去を懐かしむだけではダメだ。昔はよかったでは答えにならない。もっと先に進まなければ。
子どもの権利を守りながら、先生たちが教育に専念できる環境整備を急ぐべきだ。先生の数を増やす。先生たちの学びの機会も増やす。社会の子育てが可能となるような仕組みを地域に落とし込むことだって必要だ。
お金はどこから? 税を払うべきだ。私ならそうしてほしい。人は国の礎。すべての国民が本気で考えるべき、この国の未来の礎のためなのだから。
教育をよくするのは専門家ではない。未来を本気で考える私たちの意志なのだ。
井手 英策:慶應義塾大学経済学部教授
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