1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

華厳滝で投身、明治期の学生の絶筆が与えた衝撃 絶筆「巌頭之感」は今も絵葉書で売られている

東洋経済オンライン / 2024年5月11日 11時10分

中禅寺温泉の通りには日光土産の店が軒を連ねていたので、その一軒一軒を回って「巌頭之感」の絵はがきを探すことにする。しかし、いずれの店にも目当てのものは置いていない。店主に在庫を尋ねてもピンとこない様子であしらわれるばかりだった。

唯一、ある老舗店の主人は、「50年くらい前までは売っていたけど、最近はとんと聞かないねぇ」と教えてくれた。いずれにしても店内で目当てのものが見つかる気配はいっさいしない。

「Misao Fujimura's WILL(Farewell Poem)」

その空気が急に変わったのは華厳滝の敷地内に入ったときだ。華厳滝には滝口近くから滝壺近くに100メートル垂直に降りる観光エレベーターがあり、上下に土産物店が数件建っている。

その一軒に入ると、レジから近い目立つ場所に当たり前のように「巌頭之感」が並べられていた。

官製はがきよりも大きい183×140ミリ大の厚紙に、例の写真と華厳滝のモノクロ写真が並べて印刷されている。華厳滝の右上には藤村操のポートレートも添えられていた。

他の店でも同じデザインのものが売られており、価格は共通して税込み100円だった。売り方は店によってさまざまで、他の絵はがきと一緒にただ並べている場合もあれば、外国人観光客向けに「Misao Fujimura's WILL(Farewell Poem)」(藤村操の遺言、訣別の詩)、「You can google it...」(ググってね)など手描きしたポップで飾っている場合もあった。

エレベーターから降りた滝壺近くの観瀑台で営業している店に話を聞くと、「いまもぽつぽつ売れていますよ。若い人にも結構人気があります」という。販売を開始した時期は思い出せないくらい前とのこと。

かつては華厳滝周辺で広く扱っていたが、現在は販路を絞って、細く長く売っているということのようだ。派生商品などはなく、ただ一枚の写真だけを売り続けているという。

なお、エレベーターの降り口から観瀑台に向かうトンネルの中には、華厳滝に投身した人々を慰霊する像が置かれている。1966年9月に作られたものだ。

以前は自殺と結びつく場所ではなかった。観光資源であり、自殺に誘う危険をはらむもの。慰霊の像は、「巌頭之感」が生んだ光と影が60年にわたって消えなかったひとつの証拠といえるだろう。

青山霊園にも「巌頭之感」

慰霊の像が捧げられてさらに約60年。2024年現在もオープンにされている「巌頭之感」が実はもうひとつある。東京都の青山霊園にある藤村家の墓地に置かれた記念碑だ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください