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次第に気持ちが離れる、光源氏の夫婦関係の複雑 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫⑤

東洋経済オンライン / 2024年5月12日 17時0分

ほかの大勢とは比べものにならないくらいかわいらしい女童に出会い…(写真:Nori/PIXTA)

輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。

NHK大河ドラマ「光る君へ」で主人公として描かれている紫式部。彼女によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』は、光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵を描いている。

この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 1 』から第5帖「若紫(わかむらさき)」を全10回でお送りする。

体調のすぐれない光源氏が山奥の療養先で出会ったのは、思い慕う藤壺女御によく似た一人の少女だった。「自分の手元に置き、親しくともに暮らしたい。思いのままに教育して成長を見守りたい」。光君はそんな願望を募らせていき……。

若紫を最初から読む:病を患う光源氏、「再生の旅路」での運命の出会い

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若紫 運命の出会い、運命の密会

【図解】複雑に入り組む「若紫」の登場人物系図

無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。

その気持ちにほだされて

京に戻った光君はまず宮中に向かい、父帝にここ数日の話をした。光君を見て、本当にひどくやつれてしまったものだと帝は心配になる。聖の験(げん)の力がいかにすぐれているかと光君がくわしく話すと、

「阿闍梨(あじゃり)に任ぜられてしかるべき人物なのだろう。それほど修行の年功がありながら、朝廷で少しも知られていなかったとは……」と帝は尊敬をこめて言う。

ちょうど参上していた左大臣がやってきて、

「お迎えにと存じましたが、お忍びのお出かけですので、どうかと思って遠慮いたしました。私どもの邸(やしき)で一日二日、ゆっくりご休息なさいませ」と言う。「これから私がお供いたしましょう」

光君は気が進まなかったが、その気持ちにほだされて退出することにした。左大臣は自分の車に光君を乗せ、自分は末席に座る。こうして自分のことをだいじに世話してくれる左大臣の誠意を、さすがに心苦しく思うのだった。

左大臣の邸では、光君がやってくるのを心待ちにしてあれこれ用意をし、光君が久しく顔を見せないうちに、ますます玉で飾った高殿よろしく邸を飾り立て、何もかも華麗に整えていた。妻である女君(葵(あおい)の上(うえ))は、いつものように引っ込んだままで、すぐには姿をあらわさない。左大臣に強く勧められて、やっとのことであらわれたものの、まるで絵に描いた物語のお姫さまのように座り、身じろぎもせず、堅苦しいまでに行儀よくしている。光君が心の中の思いをそれとなく口にしたり、山に行っていた話をしてみても、女君は少しも打ち解ける様子がない。気の利いた返事でもしてくれるのならば話し甲斐(がい)もあって、愛情も湧いてこようものを、光君を気詰まりな相手だと思っているかのようによそよそしい。いっしょになってから年月が重なるのにつれて、どんどん気持ちが離れていくようで、光君はさすがにやりきれない気持ちになって、言った。

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