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「覇気のない」演説から見えるプーチンの焦り ウクライナは逆に夏の反攻作戦準備に注力へ

東洋経済オンライン / 2024年5月14日 9時30分

この戦略はいわば、戦力が整うまで攻撃用兵力を温存する「時間稼ぎ」である。そのウクライナ軍が6月から8月の間にロシア軍への反攻作戦を再開すべく準備を密かに開始している。

この準備の動きを象徴するのは、2024年5月9日にゼレンスキー大統領が突然発表した特殊作戦軍のルパンチュク司令官の解任だ。ルパンチュク氏は2023年11月に司令官に就いたばかりだった。

解任人事の背景にあるのは、2023年秋に始まったドニプル河右岸でのウクライナ軍の渡河作戦の停滞だ。作戦を担当していたのが特殊作戦軍だった。

ロシア軍の激しい抵抗を受けてウクライナ軍の橋頭堡が広がらないため、業を煮やした大統領が司令官の交代に踏み切ったと筆者はみる。近く橋頭保を拡大する攻撃を始める計画だろう。

ドニプル河東岸以外に反攻作戦の対象地域は、ロシア軍が比較的手薄なアゾフ海北岸の南部とクリミアになるだろう。

南部で狙うのはロシア本土からドンバス州、ザポロジェ州ベルジャンスク、メリトポリに至る鉄道補給路の遮断だ。ここでの攻撃で活用が期待されているのが、長距離砲のほかに、特殊作戦軍が指揮するパルチザン部隊だ。

一方で、クリミアへの攻撃ではクリミア大橋の破壊がメーンになる。2024年4月にアメリカが初めて供与したばかりの最大射程が300キロメートルとなる長射程地対地ミサイル「ATACMS」(エイタクムス)による橋脚への攻撃だ。

ロシアの出撃基地をうまく叩けるか

このATACMSは「コンクリートクラッシャー」とも呼ばれるほど破壊力が大きい。このミサイルを一度に複数撃ち込めば、橋脚の破壊が可能という。

このような攻撃で南部とクリミアの補給路を同時に通行不能にすれば、その軍事的影響は大きい。ロシア軍にとってウクライナへの重要な出撃基地となっているクリミア半島が、ロシア本土との接続を断たれ出撃基地としての機能を喪失する。

ウクライナが準備を進めている今後の反攻作戦では、F16戦闘機による上空からの援護も想定した「立体的」な攻撃を行う予定だ。F16は2024年夏には欧州諸国から供与が開始される見込みだ。

2023年6月に始めた第1次反攻作戦は、F16戦闘機による上空からの援護なしに行ったことが失敗の大きな要因になった。

では、なぜウクライナ軍は夏に反攻開始を目指しているのか。それは6月、7月以降の重要な外交日程をにらんでいるからだ。

ウクライナが提唱する和平案「平和の公式」について話し合うためスイスで6月半ばに首脳級のハイレベル会合が開かれる。また7月にワシントンではNATO(北大西洋条約機構)首脳会議が開催され、NATOとウクライナとの相互関係をめぐる協議が行われる。いずれかの会合で、ウクライナは侵攻で優位に立っていることを誇示する必要がある。

これらの会議がウクライナ情勢に大きな影響を与えるのは論を待たないだろう。ウクライナとしては、国際社会に向けて軍事面での成果を誇示することで、現在のロシア軍優勢論を打ち消しウクライナへの支援の機運を高めることを狙っている。

「もしトラ」をにらんだウクライナ外交

同時に2024年11月のアメリカ大統領選もにらんでいる。ウクライナへの軍事支援に消極的とみられるトランプ氏が大統領選で返り咲く可能性を想定しているためだ。

大統領選前にロシア軍に対する軍事的優位性をしっかり印象付けることで、トランプ氏がウクライナ支援の縮小を言い出しにくくなる政治的環境を事前に作り出すことが狙いだ。

ガザ紛争で国際社会の関心が中東情勢に移る中、ゼレンスキー政権としてはウクライナへの前向きな関心を取り戻すために「軍事的に今やるしかない」(軍事筋)との覚悟だ。

吉田 成之:新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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