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「リベラルアーツ」を軽視しすぎた日本社会の代償 「リーダーシップ」と「教養教育」の不可分な関係

東洋経済オンライン / 2024年5月17日 9時30分

山口:まさに、ピーター・ティールなどが典型ですね。彼は大学の学部は哲学科で、その後、大学院はロースクールで学んでいます。スラック(Slack)の創業者のスチュワート・バターフィールドも哲学科の出身です。シリコンバレーのハイテク業界というと、「STEM」という印象がありますけれども、実はそうでもないんですね。

クリスチャン・マスビアウが『センスメイキング』という本で、若い時期の求職においては、STEMの学位は有利に働くかもしれないが、経営者の経歴を見てみると、STEMではなく人文科学系の学位を取っている人のほうが多いというデータがあると書いています。この話をするとSTEM系の人は猛烈にかみついてくるので怖いんですけれども(笑)。

堀内:金融の世界では、「イングランド銀行を潰した男」の異名を取るクオンタム・ファンドで大成功したジョージ・ソロスは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で哲学の学士と修士を取っています。ジョージ・ソロスと一緒にクオンタム・ファンドを設立したジム・ロジャーズもイエール大学で歴史、オックスフォード大学で哲学の学士を取っています。山口さんがおっしゃるように、日本では早い時期に専門を決めてしまう弊害があるのかもしれません。学生も何を勉強するのかをよく意識しないで大学を決めているので、大学で学ぶことの意義自体がかなり曖昧になってしまっているのだと思います。

堀内:キャリア形成の話をすると、山口さんは慶応を卒業されて電通に入社されましたが、その前の学歴が日本的ではないと言いますか、とてもユニークですよね。その辺りのお話をお聞かせいただけませんか。

山口:その辺りの話は実はあまり戦略的ではなくて、高校は慶応の付属だったのですが、当時から作曲を勉強していましたので藝大に行こうか迷っていました。

実は慶応の付属から慶応大学を卒業し、その後、藝大に入り直した人――作曲家の千住明さんですが――が遠い知り合いだったこともあってアドバイスを求めたところ、「作曲の勉強は、大学ではそんなに学べるものではないよ」と言われたのです。それで、慶応文学部の美学専攻に進みました。

就職という段になって、どの道に進むかとなったとき、父が興銀に務めていて、当時の興銀は割と身内に甘い会社で「興銀に来るか」と言われたのですが、金融の世界には興味が持てませんでした。それを父に伝えると、「大学時代は音楽を作ってばかりで協調性もないし、おまえみたいな変わり者は電通のような会社が向いているんじゃないか」と言われ、それがきっかけで電通を受けることにしました。

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