「頭がいい人」ほど前例にとらわれる当然の事情 「失われた30年」につながる明治の官僚システム
東洋経済オンライン / 2024年5月23日 15時0分
そうして割と官僚的な人間たちが明治維新を生き伸びることになった。そういう人たちが明治以降の日本をつくってきたわけである。
官僚的な人間たちは自分たちと同じような人材を育成するために、帝国大学や陸軍士官学校、海軍兵学校などのエリート養成学校をつくった。
だが日清戦争や日露戦争で活躍した将官というのは、帝国大学や陸軍士官学校などの出身でもなんでもない。
日露戦争でバルチック艦隊を破った東郷平八郎は薩摩藩士として育ち、自ら望んでイギリス留学をするなかで、自分で考えた戦術で戦果を挙げていた。同じく日露戦争の旅順攻略を果たした乃木希典も萩の藩校に学んだだけで、実戦のなかで頭角を現していった。
明治時代には、まだそういう人材がトップに立つ素地があったため、自分で考えた天才的なやり方で戦うことができた。
そもそも日本にとって当時、戦争での戦い方の「前例」がなかったわけだから、自分の考えでやるしかなかった。それで日清戦争や日露戦争を戦ったわけだ。
それが明治の終わり頃になって教育がシステム化されてくると、これは今と同じで、学校での成績に優れた「頭のいい」秀才が政治でも軍隊でも中心を担うようになってきた。
当然、帝国大学のトップになる人間というのは、受験や学内の試験を勝ち抜いてきたエリートであり、陸軍士官学校や海軍兵学校もこれは同じだろう。
典型的な「秀才のトップ」東條英機
このような秀才たちは自分が試行錯誤をして何かを成し遂げて、その地位を手に入れたわけではないため、学校で学んだことに忠実になる。
そういう人間がトップに立つということが明治時代の終わり頃からずっと続いたことで、第二次世界大戦が始まる頃には、以前のように実戦のなかで鍛え、自分で考えて道を切り拓いてきたような人物はほとんどいなくなっていた。
そうすると上に立つ人の言うことをよく聞いて、試験勉強の成績がいい秀才がトップに立つことになる。その典型が陸軍士官学校出身の東條英機だ。
改めて指導者としての東條の実績を見てみると、たいていの場合は調停役を務めるばかりで、何か独自に発案し決行するということがほとんどない。
秀才タイプの人間は前例のあることならば前例にならってうまく対応できるが、前例がないことが起きたときにはどうしようもなくなってしまうのだ。
これは今の日本とまったく同じで、前例のない未曾有の事態を迎えたときにどのように対処するべきか、創造的な手段を考えつくことができない。試験での正解ばかりを追求してきたから、どうしても前例主義に陥ってしまう。
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