「女子高生に扮したおじさんの恋」にグッときた夜 NHK「VRおじさんの初恋」が名ドラマである理由
東洋経済オンライン / 2024年5月23日 19時0分
終わりの近いこの世界をひとりで見届けるはずだった。それがいまはふたりで世界の終わりを待つ。その幸福感にナオキは浸る。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のような叙情性も立ち込める。
ホナミの現実の顔はーー直樹よりも年配で、成功者でもあるシニア男性・穂波(坂東彌十郎)。その衝撃の事実の発覚は物語の前半のピークである。かなりクライマックス感のある内容だけれど、『VRおじさん〜』の真骨頂は、お互いの正体を知ってからなのだ。
穂波は直樹と現実の世界でもつながりたいと希望するが、直樹はVRの世界だけのつき合いにしたいと考える。「現実と混ぜるのはこの世界を裏切ることになると思う」と。それだけ直樹の中でVRの世界は大事であり、現実逃避としての場ではなく、独立したひとつの世界として大切に思っているのである。
江戸川乱歩の名言「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」のように、仮想現実のほうが真実であるという考えを誰が否定できようか。
原作者の想いを尊重した内容
「(ホナミとの)この関係に名前なんてなくていい。初恋ってだけでいいんだ」
この直樹のセリフには心が震えた。性差も年齢差も地位も、存在する世界の種類も関係ない。初恋というだけでいい、それ以上を望まない。ナオキ(直樹)の想いが尊い。
中年男性の悲哀が、VRの世界の美少女・アバターに仮託することで、こんなにもカラフルでポップな世界になる。でも悲哀も残っている。いや、そうすることで悲哀も高まる。ナオキとホナミ役の倉沢杏菜と井桁弘恵のフレッシュさと、直樹と穂波役の野間口徹と坂東彌十郎の年輪、どちらも魅力的だ。
ホナミを好きなあまり、現実世界のホナミ(穂波)を追いかけてしまった直樹。VRの世界を大事にしてきた彼がしだいに現実の人間関係にもコミットしはじめる。会社のおせっかいな同僚・佐々木(堀内敬子)は直樹に恋人ができたと思い込んでいる。まあ、あながち間違いではないのだが。
直樹はホナミ(穂波)と彼の娘・飛鳥(田中麗奈)とのこじれた関係を修復すべく行動をはじめる。原作との違いは、ドラマでは現実パートの割合が多いことだ。
単行本1巻分の漫画を15分✕32回の連ドラにするにあたり、どこを膨らませるかと考えたら、直樹がVRにハマったきっかけとなる現実世界を描くことで対比を色濃くする。その考え方は妥当だろう。
原作者の暴力とも子がnoteに書いている文章を読むと、原作に書かれていない部分を膨らませるにあたって、ドラマスタッフが原作者にヒアリングしているそうだ。なので、昨今問題になる、映像化する側の独自な原作改変ではなく、あくまでも原作者の想いを尊重している。それもあってか違和感はあまりない。
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