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「女子高生に扮したおじさんの恋」にグッときた夜 NHK「VRおじさんの初恋」が名ドラマである理由

東洋経済オンライン / 2024年5月23日 19時0分

おせっかいな佐々木をはじめとした直樹の会社の人たちは、原作では名前もないキャラクターだが、ドラマではかなり膨らんでいる。加藤(瀬⼾芭⽉)というオリジナルキャラクターもいる。この加藤の自意識がなかなか面倒くさくておもしろい。

たとえば、1本の栄養ドリンクを差し入れるだけでも、彼女の場合、かなりの気苦労がある。他者への配慮と自意識の相違を思い知らされると同時に、そこまで突き詰めないとならない生きづらさを思う。

また、飛鳥とその部下・耕助(前原滉)や飛鳥の息子・葵の学校のエピソードなども手厚く描かれている。

NHKの“上から目線”がない作品

最終週では、現実の世界で、直樹が「ブルース・リー・スピリッツ作戦」なるものを葵と耕助とともに決行しようと画策し、飛鳥をVRの世界に誘う。

すると彼女は「どうしたって現実で生きていかなきゃいけないのに、見た目をきれいにしただけのきれいでもなんでもない人間が目的もなく時間を浪費するこのコンテンツのありかたが私には理解できない」と言う。

案の定、こういうセリフが出てきた。この流れだと、書を捨てよ町へ出よ、じゃないが、VRの世界を終わらせて現実に戻ろうとなってしまわないだろうかといささか心配にもなった。

直樹がこのまま現実の世界で奮闘して、現実の世界も捨てたものじゃないというふうになったらどうしようと危惧したが、飛鳥がVRの世界を体験することで穂波を理解することになる。

原作は徹底して、世間でいうところの“成功者ではない者たち”の側に立った物語だ。変わるとか変わらないとかではなく、状況や心情をありのままに描いたからこそ、強烈に心を打つものになったのだろうと感じる。

一方、NHKは社会的弱者を描いたドラマを多く作っているものの、作っている人たちの中心は社会的強者、成功者の側である。悪気はなくとも、どうしてもやや上から目線のお説教的なドラマになりがちだ(だからこそ以前、同局で放送された内村光良のコント番組で「NHKなんで」というギャグも生まれたのだろう)。

俗に言う「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」的なズレがいつもどこかにある気がするのだ。その点、『VRおじさんの初恋』はその差異を埋められる可能性をもった作品だ。

VRの世界を真実として生きる者たちをどうとらえるか。これは世界の未来にとって大きな課題である。世の中はまだVRの世界に懐疑的な人も少なくはないだろう。おじさんのアバターが美少女(それも制服や露出の高い服やうさぎの耳のかぶりもの)であることに引っ掛かりを覚える視聴者もいるだろう。

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