上司の気難しい表情すら管理する社会の結末 Z世代の不快を消す「デオドラント化」の限界
東洋経済オンライン / 2024年5月29日 9時30分
呆れて笑って「いやいやそんなわけ」と返せる方もいるかもしれないけれども、言われたほうにとっては自身のアイデンティティを深く傷つけられる原因にもなりうる。この手の話には、ますます繊細になっておくに越したことはない。
そして、職場の上司である。上司というのは絶対的に権力を有していて、だから怖い。威圧的である。人事権や評価を握っていることすらある。とんでもないストレス要因だ。そんな上司が嫌そうな顔をしている。不機嫌だ。自分に向けたものだろうか……。そうした不安に襲われると、仕事どころではなくなっていくだろう。
いつも上から目線で、権力を利用して、能力を、性別を、年齢を、貶めてくる。上司は存在からしてマイクロアグレッションの塊であるわけだ。
ただ、マイクロアグレッションをめぐる言説に、一つだけ指摘しておきたい。自らマイクロ(微細)と表現しているところだ。微細だからやっていい、とは断じて言わない(こういうことはしつこいくらい丁寧に言っておくべきことだ)。それは理屈が通らない。
でも、「微細」なのである。マイクロアグレッションを犯すことが、たとえば職を追われるとか、プライベートにまで侵食するようなバッシングを受けるとか、いわゆるキャンセルカルチャーの対象になるほどの重さだといえるのだろうか。
マイクロアグレッションはまた、多くの場合無意識だとされる。つまり悪気はないのだ(悪気がないから言っていいわけでは、断じてない)。かつ、言ってるほうは無意識なのだから、放っておいても改善は望めないだろう。
それなら、直接伝えて変えてもらうとか謝罪を求めるとか、第三者が毅然と注意を促すとか、そういった「微細な」行動で修正していくのがよいだろう。微細な問題をつど微細に解決して、社会は円滑に回っている。
ただ、現代社会ではそんなヌルいことを言ってもいられない状況がある。
デオドラント化する社会
大手メディアで、ある起業家がインタビューを受けていた。職場関連のコンサルティングビジネスらしい。記事の題には、こんな言葉が並ぶ。
「心を壊す職場、全廃作戦」
「気むずかしい表情の上司は存在がストレス」
要は、職場で上司が不機嫌そうな顔をしていて、それがメンタルヘルスに悪影響を及ぼしているので、職場の改善を促すというビジネスらしい。誰かを守ろうとするまっすぐでキラキラした正義感と、おどろおどろしい言葉のコントラストに、ちょっとおののいてしまった。「悪人を全員ころして、世界平和を達成!」みたいなスローガンだ。
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